「いつものランニングに変化をつけたい」「楽しみながら走力をアップさせたい」そう感じているランナーにぜひ試していただきたいのが「ファルトレク」というトレーニング方法です。
ファルトレクは、スウェーデン語で「スピードの遊び(Speed Play)」を意味し、その名の通り、走るペースを自由に変化させながら楽しむことを目的としています。 決まった距離やタイムに縛られることなく、その日の気分や体調に合わせて、速いペースとゆっくりなペースを繰り返すことで、心肺機能や持久力、スピードを同時に鍛えることができる効率的な練習法です。 マラソン強豪国ケニアの選手たちも日常的に取り入れているこのトレーニングは、初心者から上級者まで、すべてのレベルのランナーにおすすめできます。
ファルトレクとは?基本をわかりやすく解説

ファルトレクは、一見すると難しそうに聞こえるかもしれませんが、その本質は非常にシンプルです。ここでは、ファルトレクの基本的な考え方や、他のトレーニングとの違いについて、わかりやすく解説していきます。
ファルトレクの語源と意味
「ファルトレク(Fartlek)」はスウェーデン語であり、「速度」を意味する「Fart」と、「遊び」を意味する「Lek」を組み合わせた言葉です。 直訳すると「スピードプレイ(Speed Play)」となり、その名の通り、スピードを変えながら遊ぶように走るトレーニング方法を指します。 このトレーニングは、1930年代にスウェーデンの陸上コーチ、ゴスタ・ホルマーによって考案されたと言われています。 従来の厳格なインターバルトレーニングとは異なり、ランナーが自身の感覚を大切にしながら、楽しみながら走力向上を目指せるのが大きな特徴です。
「スピードの遊び」と呼ばれる理由
ファルトレクが「スピードの遊び」と呼ばれる所以は、その自由度の高さにあります。 インターバル走のように、あらかじめ走る距離やペース、休憩時間を厳密に設定する必要がありません。 例えば、「あの電柱まで速く走って、次の公園まではゆっくりジョギングする」といったように、地形や目印を利用して、その場の判断でペースを変化させます。
このように、ルールに縛られず、まるで子供が駆けっこで遊ぶような感覚で実践できるため、「スピードの遊び」と表現されるのです。 この自由なアプローチが、トレーニングの単調さをなくし、ランニングを続けるモチベーション維持にも繋がります。
インターバル走との違い
ファルトレクとよく比較されるトレーニングに「インターバル走」があります。どちらも速いペースと遅いペースを繰り返す点で共通していますが、その運用方法には明確な違いがあります。
インターバル走は、通常、陸上競技場などの決められたコースで、「400mを90秒で走り、200mをジョグでつなぐ」というように、距離、ペース、休息時間を厳密に設定して行います。 これは、特定の生理的な効果(例えば、最大酸素摂取量の向上など)を狙って、体に高い負荷をかけることを目的としています。
一方、ファルトレクは、ペースや時間に明確な決まりがなく、ランナーのその時の感覚を重視します。 休息も完全な停止ではなく、ジョギングなどのゆっくりとしたペースで走り続けるのが一般的です。 そのため、インターバル走ほど精神的なプレッシャーが少なく、リラックスして取り組めるのが特徴です。
ファルトレクで得られる驚きの効果

ファルトレクは「遊び」の要素を取り入れつつも、ランナーにとって非常に多くのメリットをもたらすトレーニングです。ここでは、ファルトレクを実践することで得られる具体的な効果について、詳しく見ていきましょう。
持久力(スタミナ)の大幅アップ
ファルトレクは、速いペースとゆっくりしたペースを織り交ぜながら、30分から60分程度走り続ける持続的なトレーニングです。 この運動形態は、まず第一に、基本的な持久力、つまりスタミナを効果的に向上させます。 一定のペースで走り続けるジョギングよりも、ペースに変化があるため、体は様々な負荷に適応しようとします。これにより、レース後半でもばてにくい、より実践的なスタミナが養われるのです。 遅いペースの区間は回復にあてられますが、完全に休むわけではないため、心拍数が高い状態をある程度維持することになり、これが結果的に長時間の運動に耐えうる体づくりに繋がります。
スピードとペース感覚の向上
ファルトレクには、速いペースで走る区間が含まれているため、スピード能力そのものを強化する効果も期待できます。 定期的にスピードを出す練習を取り入れることで、より速い動きに体が慣れ、ランニングフォームの改善にも繋がります。 さらに、速いペースと遅いペースを自分の感覚で行き来することで、ペースコントロール能力が自然と磨かれます。 レース中に「少しペースを上げたい」「ここで少し体力を温存したい」といった場面で、自分の体を巧みにコントロールする感覚を養うことができるのです。これは、自己ベスト更新を目指す上で非常に重要なスキルとなります。
精神的なリフレッシュとマンネリ打破
毎週同じようなペース走やジョギングばかりだと、どうしてもトレーニングが単調になりがちです。ファルトレクは、その日の気分で自由にペースを変えられるため、練習のマンネリ化を防ぎ、新たな刺激となります。 タイムや距離といった数字のプレッシャーから解放され、「次はどこまでダッシュしようか」と考えながら走ることは、精神的なリフレッシュにも繋がるでしょう。 「練習しなければ」という義務感ではなく、「楽しく走りたい」という純粋な気持ちを呼び起こしてくれるため、モチベーションの維持にも大きく貢献します。
心肺機能の強化
ペースを上げ下げするファルトレクは、心臓や肺に断続的に高い負荷をかけることになります。 速いペースで走る区間では、体はより多くの酸素を必要とし、心拍数が急上昇します。そして、続くゆっくりしたペースの区間で、心拍数を落ち着かせ、呼吸を整えることを繰り返します。 この一連のプロセスが、心肺機能にとって非常に良いトレーニングとなるのです。心臓は一度に多くの血液を送り出す能力が高まり、肺は効率的に酸素を取り込むことができるようになります。 これにより、ランニング中に息が上がりにくくなり、より快適に、そしてより速く走れるようになるのです。
ファルトレクの具体的なやり方【初心者向け】

ファルトレクには決まったルールがないのが魅力ですが、初めて挑戦する方は、どのように始めればよいか戸惑うかもしれません。ここでは、初心者の方でも安心して取り組める、基本的なファルトレクの実践方法を3つのステップに分けて紹介します。
準備運動(ウォーミングアップ)の重要性
ファルトレクでは急にペースを上げることがあるため、トレーニングを始める前の準備運動は非常に重要です。怪我を防ぎ、トレーニング効果を最大限に引き出すために、最低でも5分から15分程度のウォーミングアップを行いましょう。 まずは軽いジョギングから始め、徐々に体を温めていきます。その後、足首や膝、股関節などをゆっくり回したり、太ももの前後やふくらはぎの筋肉を伸ばす動的ストレッチ(体を動かしながら行うストレッチ)を取り入れたりすると効果的です。筋肉や関節をしっかりとほぐし、体が「これから動くぞ」という準備ができた状態でメインの練習に入りましょう。
メインとなるファルトレクの実践方法
ウォーミングアップが終わったら、いよいよファルトレクの開始です。初心者の方は、まず合計で20分から30分程度の時間設定から始めると良いでしょう。 最もシンプルな方法は、時間で区切るやり方です。 例えば、「1分間速く走る ⇔ 1分間ゆっくり走る」というサイクルを10セット繰り返す、といったメニューが取り組みやすいでしょう。 「速い」ペースは、息が弾むけれど会話は難しい程度、「ゆっくり」ペースは、おしゃべりができるくらいの楽なジョギングを目安にします。慣れてきたら、速い時間を2分に伸ばしたり、セット数を増やしたりして、徐々に負荷を高めていきましょう。
整理運動(クールダウン)で疲労回復
ファルトレクを終えた後は、必ず整理運動(クールダウン)を行いましょう。急に運動を止めると、筋肉中に疲労物質が溜まりやすくなったり、めまいを起こしたりすることがあります。メインの練習が終わったら、5分から10分程度のゆっくりとしたジョギングやウォーキングを行い、徐々に心拍数と呼吸を落ち着かせていきます。その後、静的ストレッチ(反動をつけずにゆっくり筋肉を伸ばすストレッチ)で、特に使った足の筋肉(太もも、ふくらはぎ、お尻など)を入念にほぐしましょう。クールダウンを丁寧に行うことで、筋肉痛の軽減や疲労回復を早める効果が期待できます。
ファルトレクを実践する上でのポイントと注意点

自由で楽しいファルトレクですが、より安全に、そして効果的に行うためには、いくつか押さえておきたいポイントと注意点があります。ここでは、場所の選び方から実施頻度、体調管理まで、実践前に知っておくべきことをまとめました。
適切な場所の選び方(公園、不整地など)
ファルトレクは、陸上競技場のような整った場所でなくても、どこでも実施できるのが魅力です。 信号などで頻繁に止まる必要がない、周回できる公園や河川敷などがおすすめです。 もし可能であれば、芝生や土の上といった不整地を取り入れると、足腰への負担を軽減しつつ、バランス能力や脚力の強化にも繋がります。 実際に、マラソン強国のケニアの選手たちは、起伏に富んだ不整地でファルトレクを行うのが一般的です。 適度なアップダウンがあるコースを選べば、ペースが比較的遅くても心肺機能に良い刺激を与えることができます。 人通りが少ない場所を選び、安全に配慮しながら行いましょう。
実施する頻度とタイミング
ファルトレクは、体に変化をもたらす質の高い「ポイント練習」に分類されます。そのため、毎日のように行うのではなく、週に1回程度を目安に取り入れるのが良いでしょう。 例えば、週末に長めのジョギング、週の半ばにファルトレクといった形で、他のトレーニングと組み合わせるのが効果的です。レースが近い時期は、レース本番でのペース変化をシミュレーションする目的で取り入れるのも有効です。 逆に、トレーニングを始めたばかりの時期や、レース後の疲労回復期には、体に急な刺激を入れるための導入練習として、短い時間のファルトレクを行うのも良い方法です。
体調管理と無理のないペース設定
ファルトレクの最も重要な点は、「自分の感覚に従うこと」です。 その日の体調が優れないと感じたら、無理に速いペースで走る必要はありません。疾走区間のペースを少し落としたり、時間を短くしたり、あるいはその日のファルトレクはやめて軽いジョギングに切り替えるなど、柔軟に対応しましょう。 特に初心者のうちは、頑張りすぎてしまいがちですが、ファルトレクは「遊び」の要素を忘れないことが大切です。 ペースが速すぎると、フォームが乱れたり、怪我のリスクが高まったりします。 あくまで「楽しい」と感じられる範囲で、無理のないペース設定を心がけてください。
(応用編)ファルトレクをさらに効果的にするコツ

基本的なファルトレクに慣れてきたら、少し工夫を加えることで、さらにトレーニング効果を高め、ランニングの楽しみを広げることができます。ここでは、中級者以上の方や、さらなるレベルアップを目指すランナー向けの応用テクニックを紹介します。
構造化ファルトレクの取り入れ方
自由なペース変化がファルトレクの基本ですが、特定の目的意識を持って、時間を組み合わせる「構造化ファルトレク」も効果的です。 これは、疾走区間と回復区間の時間を様々に変化させる方法で、「ラダー式」や「ピラミッド式」などがあります。例えば、「(1分速く→1分ゆっくり)→(2分速く→2分ゆっくり)→(3分速く→3分ゆっくり)→(2分速く→2分ゆっくり)→(1分速く→1分ゆっくり)」のように、徐々に時間を伸ばしていき、また短くしていくメニューです。 このように複雑な構成にすることで、トレーニングの単調さをさらに減らし、異なる持続時間でのスピード維持能力を養うことができます。
坂道や階段を使ったトレーニング
普段のファルトレクのコースに、坂道や階段を意図的に取り入れることで、トレーニングの強度を格段に上げることができます。上り坂でのダッシュは、平地よりも大きな筋力、特に太ももの前側(大腿四頭筋)やお尻の筋肉(大殿筋)を必要とするため、脚力強化に非常に効果的です。 一方で、下り坂ではスピードが出やすくなるため、リラックスしながら速いペースでの走り方を身につける練習になります。 坂道や階段をコースに組み込むことで、特別なスピード練習をしなくても、心肺機能と脚力の両方を効率的に鍛えることが可能です。
仲間と行うファルトレクの楽しみ方
一人で黙々と走るのも良いですが、ランニング仲間がいる場合は、ぜひグループでファルトレクを試してみてください。 例えば、グループで走りながら、先頭を走る人がリーダーとなり、その人のペースに合わせて他のメンバーが走ります。そして、一定時間ごと、あるいは目印ごとにリーダーを交代していく、というルールで行います。 誰がいつペースを上げるかわからないため、自然とレース中の駆け引きのような緊張感が生まれ、より実践的なペース変化への対応能力が養われます。 また、励まし合いながら行うことで、一人ではきついと感じる練習も、楽しく乗り越えることができるでしょう。
まとめ ファルトレクでランニングの新たな可能性を発見しよう

この記事では、ランニングトレーニングの一種である「ファルトレク」について、その意味から具体的な効果、実践方法、そして応用テクニックまで詳しく解説しました。ファルトレクは、スウェーデン語で「スピードの遊び」を意味する通り、タイムや距離に縛られず、楽しみながら走力向上を目指せる画期的なトレーニング方法です。
速いペースとゆっくりなペースを繰り返すことで、持久力、スピード、心肺機能、そしてペースコントロール能力といった、ランニングに必要な要素をバランス良く鍛えることができます。 また、いつもの練習に変化をもたらし、マンネリ化を防ぐ精神的なリフレッシュ効果も大きな魅力です。
初心者の方は、まず「1分速く、1分ゆっくり」といった簡単なメニューから始め、自分の体と対話しながら無理なく続けてみてください。 慣れてきたら、坂道を取り入れたり、仲間とゲーム感覚で実践したりと、自分なりにアレンジを加えることで、その可能性は無限に広がります。ファルトレクを日々のトレーニングに取り入れ、ランニングの新たな楽しさと自身の成長をぜひ体感してください。



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