「学生がマラソンで2時間6分台?」
一昔前なら信じられないようなタイムが、今や現実のものとなっています。箱根駅伝などの大学駅伝で培ったスピードとスタミナを武器に、実業団選手顔負けの記録を叩き出す学生ランナーたちが次々と現れています。
特にここ数年の記録更新ラッシュは凄まじく、男子では2時間6分台前半、女子でも世界大会で戦えるレベルの記録が誕生しています。「マラソン学生記録」というキーワードは、単なる数字の羅列ではなく、日本の陸上界が世界へ近づいている証そのものと言えるでしょう。
この記事では、2025年12月時点の男女マラソン学生記録の詳細はもちろん、歴代のランキング、なぜこれほどまでに記録が伸びているのかの背景、そして初マラソンで好記録が出る理由までを、やさしく丁寧に解説します。これからマラソンを見ようと思っている方も、記録マニアの方も、学生ランナーたちの熱い挑戦の軌跡を一緒に辿ってみましょう。
マラソン学生記録【男子編】|日本トップレベルに迫るタイム

男子マラソンの学生記録は、近年まさに「群雄割拠」の様相を呈しています。かつては「学生で2時間10分を切れば一流」と言われた時代もありましたが、現在はその基準が大幅に上がり、2時間6分台での争いとなっています。
ここでは、激動の記録更新劇を見せている男子の最新状況について詳しく見ていきます。
現在の日本学生記録保持者とそのタイム
2025年12月時点では、男子マラソンの日本学生記録を保持しているのは、青山学院大学の黒田朝日選手です。彼が記録したのは、2025年2月24日に行われた大阪マラソンでの2時間06分05秒という驚異的なタイムです。
この記録の凄さは、単に学生の中で一番速いというだけではありません。当時の日本歴代ランキングでもトップ10に入るタイムであり、多くの実業団選手を上回るパフォーマンスでした。黒田選手は箱根駅伝の「花の2区」でも区間賞を獲得するなど、駅伝での強さをそのままフルマラソンに持ち込み、学生ランナーの可能性を大きく広げました。
レース展開も圧巻で、海外の招待選手や国内の有力選手を含む先頭集団に後半まで食らいつき、終盤でも大きくペースを落とすことなくフィニッシュしました。この粘り強さが、新記録樹立の大きな要因となりました。
わずか数週間で塗り替えられた記録のドラマ
実は、黒田選手が記録を出すわずか3週間前にも、学生記録が更新されていました。2025年2月2日の別府大分毎日マラソンで、同じく青山学院大学の若林宏樹選手が2時間06分07秒をマークし、当時の学生記録を樹立していたのです。
若林選手の記録も、それまでの記録(平林清澄選手)を10秒以上更新する素晴らしいものでした。「しばらくはこの記録は破られないだろう」と多くのファンが思った矢先、チームメイトである黒田選手がわずか2秒上回るという、漫画のようなドラマが起きたのです。
この短期間での記録更新劇は、青山学院大学の選手層の厚さと、学生ランナー全体のレベルアップを象徴する出来事として、陸上界に大きな衝撃を与えました。互いに切磋琢磨し、限界を超えていく学生たちの姿は、多くの人々に感動を与えています。
歴代の学生記録の変遷と傾向
学生記録の変遷を振り返ると、長い停滞期と急激な進化の時期があることがわかります。かつては藤原正和選手(中央大学)が2003年のびわ湖毎日マラソンで出した2時間08分12秒という記録が、約17年間もの長きにわたり破られずにいました。
しかし、2020年代に入り状況は一変します。厚底シューズの登場やトレーニング理論の進化により、以下のように次々と記録が更新されていきました。
【男子マラソン学生記録の近年の推移】
・2003年:藤原正和(中央大) 2時間08分12秒
(約17年の空白)
・2020年:吉田祐也(青山学院大) 2時間08分30秒 ※歴代2位(当時)
・2023年:横田俊吾(青山学院大) 2時間07分47秒 ※記録更新
・2024年:平林清澄(國學院大) 2時間06分18秒 ※記録更新
・2025年:若林宏樹(青山学院大) 2時間06分07秒 ※記録更新
・2025年:黒田朝日(青山学院大) 2時間06分05秒 ※現在の記録
このように、2023年以降は毎年記録が更新されており、しかもタイムが一気に2時間06分台へと突入しています。もはや「学生記録」という枠組みを超え、日本代表クラスの争いに学生が食い込んでくるのが当たり前の時代になったと言えるでしょう。
箱根駅伝とマラソン記録の関係性
これらの記録を持つ選手の多くに共通しているのが、「箱根駅伝での活躍」です。現在の記録保持者である黒田選手をはじめ、若林選手、平林選手、横田選手らは皆、箱根駅伝の主要区間で区間賞や上位の成績を残しているエース級の選手たちです。
箱根駅伝の距離(約20km強)は、ハーフマラソンとほぼ同じです。この距離をキロ2分50秒台というハイペースで押し切るスピード持久力は、そのままマラソンの30km以降の粘りにつながります。現代の学生マラソンは「42kmを走り切る」スタミナ勝負ではなく、「ハーフマラソンのスピードをどこまで維持できるか」というスピード勝負に変化しています。
箱根駅伝という高い目標に向けて徹底的に鍛え上げられた脚力と心肺機能が、結果としてマラソンへの適応力を高めているのです。
マラソン学生記録【女子編】|世界と戦う大学生ランナーたち

男子だけでなく、女子の学生ランナーたちも素晴らしい記録を残しています。女子の場合は、高校卒業後にすぐ実業団へ進む選手が多い傾向にありますが、大学で力を蓄え、世界へ羽ばたく選手も着実に増えています。
ここでは、女子マラソン学生記録の現状と、その価値について解説します。
現在・女子学生記録保持者とそのタイム
現在の女子マラソン日本学生記録を保持しているのは、鈴木優花選手(大東文化大学・記録時)です。彼女は2022年3月13日に行われた名古屋ウィメンズマラソンで、2時間25分02秒という記録を叩き出しました。
この記録の特筆すべき点は、その順位と勝負強さです。鈴木選手はこのレースで日本人学生記録を更新しただけでなく、MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)の出場権も獲得。その後、MGC本戦でも見事な走りを見せ、パリオリンピック代表の座を勝ち取りました(※卒業後の実業団所属時)。
学生時代に出したこの2時間25分02秒というタイムは、当時の日本女子全体で見ても非常にハイレベルなものでした。彼女の走りは、女子大生ランナーでも世界のトップアスリートと伍して戦えることを証明しました。
長らく破られなかった前田彩里の記録
鈴木選手が更新するまで、女子の学生記録として長く君臨していたのが、前田彩里選手(佛教大学)の記録でした。前田選手は2014年の大阪国際女子マラソンで2時間26分46秒を記録しました。
前田選手の記録もまた、当時としては画期的なものでした。多くの女子選手が実業団に入ってから本格的にマラソンに取り組む中、学生のうちから2時間26分台で走ることは並大抵のことではありません。彼女の記録は約8年間トップに立ち続け、女子学生ランナーにとっての大きな目標となっていました。
現在、歴代ランキングの3位には小林香菜選手(早稲田大学)の2時間29分44秒(2024年)が続いています。2時間30分を切ることが、エリート学生ランナーの一つの壁であり、ステータスとなっています。
女子学生ランナーがマラソンに挑む難しさ
女子の場合、男子と比較して学生時代にフルマラソンに挑戦する選手の数はまだ多くありません。これにはいくつかの理由があります。
一つは「実業団志向の強さ」です。女子長距離界では、高校卒業後にそのまま実業団チーム(企業の陸上部)に入り、給与をもらいながら競技に専念するケースが一般的です。そのため、トップレベルの才能を持つ選手の多くが18歳でプロに近い環境へ移ってしまいます。
もう一つは「身体的な成長と負担」です。女子選手にとって、過度な走行距離はホルモンバランスの乱れや疲労骨折などのリスクを伴います。大学の指導者も、将来ある選手の体を守るため、ハーフマラソンや駅伝(最長でも10km程度)を中心に強化し、フルマラソンへの移行は慎重になる傾向があります。
しかし、鈴木優花選手のように大学での4年間を経て心身ともに成熟してからマラソンに挑み、成功するケースが出たことで、大学経由でのキャリア形成も再評価されつつあります。
実業団選手と渡り合う学生ランナーたち
数は少ないものの、マラソンに挑戦する女子学生たちは、実業団選手に引けを取らない走りを見せています。特に大阪国際女子マラソンや名古屋ウィメンズマラソンといった大きな選考レースでは、学生選手がペースメーカーについて先頭集団を走る姿も珍しくありません。
彼女たちの強みは、大学駅伝(杜の都駅伝や富士山女子駅伝)で培ったチームワークと、学業と両立しながら競技に取り組む知性です。自分で練習メニューを考えたり、栄養管理を行ったりする自律した選手が多く、それがマラソンという孤独な競技においてプラスに働いています。
驚異の「初マラソン」学生最高記録にも注目

マラソンには「30kmの壁」という言葉があるように、経験がものを言うスポーツだと思われてきました。しかし最近では、初めてのマラソン(初マラソン)でいきなり日本記録級のタイムを出す学生が増えています。
なぜ彼らは、経験がないにもかかわらずこれほど速く走れるのでしょうか。
初マラソン学生最高記録を持つ学生選手
男子の項目で紹介した黒田朝日選手(青山学院大)の2時間06分05秒という記録は、実は初マラソンでの記録でもあります。初めての42.195kmでいきなり日本学生記録を樹立してしまったのです。
また、前記録保持者である平林清澄選手(國學院大)が2024年に出した2時間06分18秒も、初マラソンでの記録でした。つまり、現在の学生歴代1位と2位は、どちらも「デビュー戦」で記録されたものなのです。
これは「経験を積んでから記録を狙う」という従来の常識を完全に覆す現象です。彼らは初マラソンならではの恐怖心のなさと、万全の準備をもってスタートラインに立っています。
なぜ学生が初マラソンで好記録を出せるのか
学生が初マラソンで好記録を出せる最大の理由は、「ハーフマラソンの走力レベルが極めて高いから」です。
現在の箱根駅伝ランナーのトップ層は、ハーフマラソン(約21km)を60分台~61分台で走ります。これはマラソンの通過ペース(ハーフ地点)よりも遥かに速いスピードです。つまり、彼らにとってマラソンのペース(キロ3分前後)は、心肺機能的には「余裕のあるジョギング」に近い感覚で入れるのです。
もちろん後半の脚作りは必要ですが、ベースとなるスピードの余裕度が昔とは段違いです。そのため、30kmまでは楽に到達でき、残りの12kmを若さと勢いで押し切ることが可能になっています。
過去の「初マラソン衝撃デビュー」事例
学生による初マラソンの快挙は過去にもありました。有名なのが2003年の藤原正和選手(中央大)です。彼もまた、初マラソンとなったびわ湖毎日マラソンで2時間08分12秒という当時の日本学生記録(かつ初マラソン日本最高)を樹立しました。
また、近年では2022年の大阪マラソンで、星岳選手(帝京大・当時)が2時間07分31秒で優勝し、初マラソン日本最高記録(当時)を樹立した例もあります。このように、学生ランナーが初マラソンで「一発回答」を出すケースは、決してまぐれではなく、しっかりとした実力に裏打ちされたものなのです。
初マラソンに向けた学生ならではの調整法
学生ランナーの強みは、チーム全体で取り組む科学的な調整法にあります。多くの大学では、箱根駅伝が終わった1月3日以降、マラソンに挑戦する選手に対して特別なメニューが組まれます。
例えば、40km走などの距離走を行う際も、単独走ではなくチームメイトがペースメーカーとしてサポートしたり、監督車から給水を渡したりと、本番さながらの環境を作ります。また、寮生活で栄養管理された食事を摂り、疲労回復のためのケアも徹底されています。
さらに、大学の授業などのスケジュールが決まっているため、生活リズムが一定しており、練習の計画が立てやすいのもプロ選手にはない利点かもしれません。
メモ:レース選びのポイント
学生が記録を狙う場合、2月〜3月のレース(大阪マラソン、別府大分毎日マラソン、東京マラソン)が選ばれることが多いです。これは箱根駅伝(1月)でピークに達したコンディションを維持しやすく、気候もマラソンに適しているためです。
学生記録を支える「厚底シューズ」とトレーニングの進化

ここ数年の記録ラッシュを語る上で欠かせないのが、道具とトレーニングの進化です。もはや精神論だけで記録が出る時代ではありません。
厚底シューズが学生記録に与えた影響
カーボンプレート入りの厚底シューズの普及は、学生記録を劇的に押し上げました。このシューズの最大の恩恵は、「後半まで脚が残る」ことです。
かつての薄底シューズでは、地面からの着地衝撃がダイレクトに脚に伝わり、30km以降で筋肉が破壊され、失速することが一般的でした。しかし、クッション性と反発性に優れた厚底シューズは、筋肉へのダメージを軽減してくれます。
これにより、学生たちは恐れずに前半からハイペースで突っ込むことができるようになりました。「後半潰れてもいい」という覚悟ではなく、「後半も持つはずだ」という信頼感を持って走れるようになったのです。これが2時間06分台という高速タイムを生む土壌となっています。
科学的トレーニングと学生の環境
トレーニングの内容も進化しています。昔のような「月間1000km走り込み」といった根性重視の練習から、心拍数や血中乳酸濃度を測定し、効率よく持久力を高める練習へとシフトしています。
各大学にはトレーナーやフィジカルコーチが帯同し、体幹トレーニングや動き作りの指導を行っています。これにより、無駄なエネルギーを使わない効率的なフォームを習得し、マラソンの長丁場でも疲れにくい走りを実現しています。
また、GPSウォッチの普及により、1kmごとのペース管理が非常に正確になりました。練習段階から設定タイムを1秒単位で守る習慣がついているため、レース本番でもオーバーペースになることなく、冷静に刻むことができます。
大学ごとの指導方針の違いと記録
大学によってマラソンへの取り組み方は異なります。例えば、青山学院大学のように、トラックや駅伝でのスピード強化を最優先し、その延長線上でマラソンを走らせる方針のチームもあれば、駒澤大学のように、徹底した距離走とスタミナ強化で強さを発揮するチームもあります。
また、國學院大學のように、ロード(公道)での適応力を重視し、アップダウンのあるコースや悪条件下での練習を積むことで、タフなマラソンランナーを育成するチームもあります。
どの大学もアプローチは違いますが、共通しているのは「世界を見据えている」という点です。単に「箱根で勝てればいい」ではなく、「卒業後に世界大会で戦える選手を育てる」という意識が、学生記録のレベルを引き上げています。
マラソン学生記録を更新するための条件とは

いくら実力があっても、条件が整わなければ記録は出ません。学生新記録が出るレースには、いくつかの共通点があります。
気象条件とコース選びの重要性
マラソンは気象条件に大きく左右されます。記録が出やすいのは、気温5度〜10度、湿度40%〜60%、無風という条件です。2月や3月の日本の主要大会(大阪、東京、びわ湖※現在は統合)は、まさにこの条件に当てはまることが多いのです。
また、コースも重要です。東京マラソンや大阪マラソンは、高低差が少なくフラットな高速コースとして知られています。黒田選手や平林選手が記録を出した大阪マラソンも、コース改修によってより記録が出やすくなっていました。
ペースメーカーの存在とレース展開
好記録の裏には、必ず優秀なペースメーカー(PM)の存在があります。PMが正確に1km3分00秒(または2分58秒など)で先導してくれることで、選手は余計な駆け引きをせず、自分のリズムだけに集中できます。
学生記録が出るレースでは、実業団のトップ選手や海外の招待選手が作る集団に、学生がうまく乗っかる展開が多く見られます。自分たちでレースを作る必要がなく、「コバンザメ」のように力を温存し、最後の勝負所でスパートするという展開が理想的です。
メンタル面の強化とプレッシャーへの対処
最後に、メンタルです。現在の学生ランナーは、SNS世代であり、情報発信にも積極的です。周囲からの注目やプレッシャーをネガティブに捉えるのではなく、力に変えるマインドセットを持っています。
黒田選手が「同級生への想いを背負って走った」と語ったように、チームへの帰属意識や誰かのために走るというモチベーションが、苦しい場面での最後の一押しになります。駅伝というチームスポーツで培った「襷(たすき)の重み」を知る学生ならではの強さと言えるでしょう。
まとめ:マラソン学生記録から見る未来の可能性
この記事では、驚異的な進化を遂げている「マラソン学生記録」について解説してきました。最後に要点を振り返ります。
- 記録のレベルが急上昇:男子は黒田朝日選手の2時間06分05秒、女子は鈴木優花選手の2時間25分02秒と、世界大会レベルの記録が生まれています(2025年12月現在)。
- 初マラソンでの快挙:経験よりも、ハーフマラソンで培った圧倒的なスピードを武器に、初マラソンで最高記録を出す学生が増えています。
- 道具と科学の進化:厚底シューズの恩恵と科学的トレーニングにより、30km以降の失速を防ぎ、高速ペースを維持できるようになりました。
- 箱根から世界へ:箱根駅伝などの大学駅伝が高いレベルでの競争を生み、それがそのままマラソンの実力向上につながっています。
今の学生ランナーたちが更新しているのは、単なる数字上の記録だけではありません。「学生にはまだ早い」「経験が必要だ」という過去の常識そのものを塗り替えています。彼らの走りは、日本のマラソン界が再び世界の頂点を目指すための希望の光です。
今後も毎年冬のシーズンになれば、また新たなヒーローが誕生し、記録が更新されることでしょう。ぜひ、次に歴史が動く瞬間を、その目で目撃してください。




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