「順調に練習を積んでいたのに、急に足首がズキズキと痛み出した」「走るたびにくるぶしの周りに違和感がある」といった悩みは、マラソンランナーにとって非常に身近でありながら、厄介な問題です。
足首は着地のたびに体重の数倍もの衝撃を受け止める重要なパーツであり、その構造は非常に複雑です。そのため、痛みの原因も単純な使いすぎから、シューズの不適合、フォームの乱れまで多岐にわたります。痛みを抱えたまま無理に走り続けると、フォームが崩れて膝や腰など他の部位まで故障したり、最悪の場合は疲労骨折に繋がったりすることもあります。
この記事では、マラソンにおける足首の痛みの主な原因から、痛む場所ごとの具体的な症状、すぐにできる応急処置、そして再発を防ぐためのトレーニング方法までを詳しく解説します。正しい知識を身につけ、万全の状態でスタートラインに立てるよう準備を整えましょう。
マラソンで足首に痛みが走る主な原因とは?

マラソンの練習中やレース後に足首が痛くなる原因は一つではありません。多くの場合、複数の要因が重なって痛みとして現れます。ここでは、ランナーが陥りやすい代表的な4つの原因について解説します。まずは自分の状況と照らし合わせ、何が痛みの引き金になっているのかを考えてみましょう。
オーバーユース(使いすぎ)による疲労の蓄積
マラソンランナーが最も陥りやすい原因の一つが、オーバーユース、いわゆる「使いすぎ」です。特に大会が近づくと、不安から練習量を急激に増やしたり、十分な休養を取らずに連日走り込んだりしてしまいがちです。足首の関節やその周囲を取り巻く腱、靭帯は、走る動作において常に伸縮と衝撃吸収を繰り返しています。適切な休息があれば組織は修復され強化されますが、修復が追いつかないペースで負荷をかけ続けると、微細な損傷が蓄積し、やがて炎症や痛みとなって現れます。「練習を休む勇気」もトレーニングの一環であることを理解し、計画的なスケジュール管理を行うことが重要です。
ランニングフォームの乱れと着地の衝撃
理想的なランニングフォームで走れていれば、着地の衝撃は足首、膝、股関節へとスムーズに分散されます。しかし、フォームが乱れていると、特定の箇所に過度な負担が集中してしまいます。例えば、重心よりも極端に前で着地する「オーバーストライド」や、つま先が外側や内側に向きすぎている状態で着地する癖があると、足首にはねじれるような力が加わります。また、疲労してくると腰が落ちて「後傾姿勢」になり、ドスンと踵から強く着地するようになります。この衝撃はダイレクトに足首へと伝わり、関節内部やアキレス腱に大きなストレスを与える原因となります。
シューズ選びの失敗とソールの劣化
ランニングシューズは、足を守る唯一の道具と言っても過言ではありません。自分の足の形やサイズ、プロネーション(着地時の足の傾き)に合っていないシューズを選んでしまうと、足首への負担は激増します。例えば、サイズが大きすぎると靴の中で足が遊んでしまい、それを安定させようと無意識に足首周辺の筋肉が緊張し続けます。逆に小さすぎれば圧迫による血行不良や神経の痛みを招きます。また、お気に入りのシューズでも、長期間使用してソールがすり減っている場合は注意が必要です。クッション性や安定性が失われたシューズは、衝撃吸収能力が著しく低下しているため、知らず知らずのうちに足首を痛める原因となります。
路面状況やコースの変化による環境的負荷
普段走っているコースの路面状況も、足首の痛みと深く関係しています。アスファルトやコンクリートのような硬い路面は、着地の反発が強く、足へのダメージが大きくなります。一方で、不整地(トレイル)や傾斜のきつい坂道が多いコースも、足首の安定性を保つために過剰な筋力を必要とします。特に、道路の路肩のような傾斜がある場所を走り続けると、片方の足首だけに常にねじれの負荷がかかることになります。いつも同じコース、同じ側の道路端を走っている人は、左右のバランスが崩れやすいため、定期的にコースを変えたり、平坦な場所を選んだりする工夫が必要です。
痛む場所でわかる!足首の具体的なトラブル

「足首が痛い」とひとことで言っても、内側が痛むのか、外側が痛むのか、あるいは後ろ側なのかによって、疑われる障害の種類は異なります。痛む場所を特定することは、適切なケアを行うための第一歩です。ここでは、部位別に考えられる主なトラブルについて詳しく解説します。
後脛骨筋腱炎(足首の内側の痛み)
足首の内側、くるぶしの下から後ろにかけて痛みが出る場合、「後脛骨筋腱炎(こうけいこつきんけんえん)」の可能性があります。後脛骨筋は、ふくらはぎの深層から内くるぶしの後ろを通り、足の裏へとつながる筋肉で、土踏まず(アーチ)を支える重要な役割を担っています。この部分に痛みが出る主な要因は「オーバープロネーション(過回内)」です。着地時に足首が内側に倒れ込みすぎることで、腱が強く引っ張られ、炎症を起こします。扁平足気味のランナーや、筋力不足でアーチが落ちてきている場合に発症しやすく、放置すると痛みが慢性化しやすいのが特徴です。
腓骨筋腱炎(足首の外側の痛み)
足首の外側、外くるぶしの後ろや下に痛みや腫れを感じる場合は、「腓骨筋腱炎(ひこつきんけんえん)」が疑われます。腓骨筋はすねの外側にある筋肉で、足首を外側に反らす働きや、着地時の横方向のブレを防ぐ役割を持っています。足の外側に体重がかかりやすい「O脚」気味のランナーや、シューズの外側ばかりが削れる人は、この部位に負担が集中しがちです。また、捻挫をした後に適切なリハビリを行わず、不安定な状態で走り始めた場合にも、代償動作として腓骨筋が酷使され、痛みが発生することがあります。カーブの多いコースを走る際も外側の足に負担がかかるため注意が必要です。
アキレス腱炎(足首の後ろ側の痛み)
かかとの上、足首の後ろ側にある太い腱に痛みやきしみを感じるのが「アキレス腱炎」です。アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉と踵の骨をつなぐ人体で最強の腱ですが、ランニングでは着地のたびに体重の数倍の負荷がかかり続けます。スピード練習や坂道ダッシュなど、瞬発的な力を多用するトレーニングを行った後に発症しやすい傾向があります。また、ふくらはぎの筋肉が硬くなっていると、アキレス腱への牽引力が強まり、微細な断裂や炎症を引き起こします。朝起きた時の一歩目に強い痛みを感じ、動き出すと少し緩和するのが典型的な初期症状ですが、悪化すると歩行すら困難になるため早期のケアが必須です。
足関節前方インピンジメント(足首の前側の痛み)
足首の前側、ちょうど足の甲とすねのつなぎ目あたりに詰まるような痛みを感じる場合、「足関節前方インピンジメント症候群」の可能性があります。これは、足首を背屈(つま先を上げる動作)させた時に、骨同士や軟部組織が挟み込まれて痛みが出る症状です。ランニングにおいては、下り坂を走る際や、ストライドを広げすぎて着地した時などに、足首が過度に曲がり負担がかかります。また、過去に捻挫を繰り返していると、関節内に骨棘(こつきょく)という骨のトゲができ、それが衝突して痛みの原因になることもあります。足首を深く曲げると痛むため、しゃがみ込む動作がつらくなるのが特徴です。
疲労骨折の可能性(骨の深部からの痛み)
筋肉や腱の痛みとは異なり、安静にしていてもジンジンとした痛みが続いたり、特定の骨を押すと激痛(圧痛)が走ったりする場合は、「疲労骨折」の危険性があります。足首周辺では、すねの骨である脛骨や、外側の腓骨、足の甲にある中足骨などが好発部位です。原因は、骨の強度を超える負荷が繰り返し加わることによる金属疲労のような現象です。初期段階ではレントゲンに写らないことも多く、MRI検査が必要になるケースもあります。「走ると痛いが、休めば治る」を繰り返しているうちに、ある日突然走れなくなることもあります。痛みが局所的で長引く場合は、自己判断せずに医療機関を受診することが極めて重要です。
痛みを感じた時にすぐ実践したい応急処置とケア

練習中に痛みを感じたり、走り終わった後に違和感を覚えたりしたときは、迅速な対応が回復までの期間を大きく左右します。「少し休めば治るだろう」と放置せず、適切な処置を行うことが大切です。ここでは、痛みが出た直後から回復期にかけての基本的なケア方法を紹介します。
基本のRICE処置を正しく理解する
急性の痛みや腫れが出た場合の基本となるのが「RICE処置」です。以下の4つの手順を適切に行うことで、炎症の拡大を防ぎ、痛みを最小限に抑えることができます。
Rest(安静):まずは運動を中止し、患部を動かさないようにします。無理に動かすと損傷が悪化します。
Ice(冷却):氷嚢や保冷剤を使って患部を冷やします。血管を収縮させて腫れや内出血を抑えます。1回15〜20分を目安に行いましょう。
Compression(圧迫):テーピングや弾性包帯で軽く患部を圧迫し、腫れが広がるのを防ぎます。強く巻きすぎないよう注意が必要です。
Elevation(挙上):患部を心臓より高い位置に上げます。血液やリンパ液の滞留を防ぎ、腫れを軽減します。
最近では、これに加えて「Protection(保護)」を含めたPOLICE処置なども提唱されていますが、まずは基本の冷却と安静を徹底することが重要です。
痛みが強い期間の過ごし方と休養
痛みが強い時期は、ランニングを完全にストップする勇気が必要です。「練習を休むと走力が落ちる」と焦る気持ちはわかりますが、痛みがある状態で走っても正しいフォームは維持できず、かえって変な癖がついたり他の部位を痛めたりします。この期間は、足首に負担をかけないクロストレーニングを取り入れましょう。例えば、プールでのウォーキングや水泳、エアロバイクなどは、着地の衝撃がないため心肺機能を維持しながら安全に行えます。また、上半身の筋力トレーニングや体幹トレーニングに集中する期間と割り切ることで、復帰後のパフォーマンスアップにつなげることも可能です。
炎症が落ち着いてからのセルフマッサージ
鋭い痛みや熱感が引き、炎症が落ち着いてきたら、徐々に周囲の筋肉をほぐして血流を良くしていきます。ただし、痛めている患部そのものを強く揉むのは避けてください。狙うべきは、患部につながる筋肉です。例えば、アキレス腱が痛む場合はふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)を、足首の外側が痛む場合はすねの外側の筋肉をやさしくマッサージします。テニスボールやフォームローラーを使って、筋肉の張りを取り除くのも効果的です。また、入浴時に湯船の中で足首をゆっくり回したり、指の間を広げたりしてリラックスさせるのも良いでしょう。
病院に行くべきタイミングと判断基準
セルフケアで改善が見られない場合や、以下のような症状がある場合は、迷わず整形外科やスポーツ専門医を受診してください。
- 体重をかけると激痛が走り、歩行が困難である。
- 安静にしていてもズキズキとした痛みが続く。
- 明らかに腫れていたり、変色(内出血)していたりする。
- 2週間以上ケアを続けても痛みが変わらない、または悪化している。
特に疲労骨折や重度の腱損傷は、早期発見・早期治療が競技復帰への最短ルートです。専門家の診断を受け、MRIや超音波検査などで正確な状態を把握することが、結果的に長く楽しく走り続けるための鍵となります。
再発を防ぐ!足首を強く柔軟にするストレッチと筋トレ

痛みが治まったからといって、何も対策をせずに以前と同じように走り始めれば、また同じ痛みを繰り返す可能性が高いです。足首のトラブルを防ぐには、「柔軟性」を高めて衝撃を吸収できるようにすることと、「筋力」をつけて着地を安定させることが不可欠です。ランナーにおすすめの具体的なトレーニング方法を紹介します。
足首周りの柔軟性を高めるストレッチ
足首が硬いと、着地時の衝撃を逃がしきれず、関節や腱に負担が集中します。特にふくらはぎの柔軟性は重要です。
ふくらはぎのストレッチ:
壁に向かって立ち、両手を壁につきます。片足を大きく後ろに引き、かかとを床にしっかりつけたまま、前の膝をゆっくり曲げていきます。後ろ足のふくらはぎが気持ちよく伸びるところで20〜30秒キープします。この時、つま先が真っ直ぐ前を向くように意識しましょう。膝を伸ばした状態で行うと腓腹筋が、少し膝を緩めた状態で行うとヒラメ筋(アキレス腱に近い部分)が伸びます。両方のパターンを行うのがおすすめです。
正座ストレッチ:
すねの前側(前脛骨筋)を伸ばすストレッチです。床の上で正座をし、両手を後ろについて体重を少しずつ後ろにかけます。余裕があれば、膝を軽く床から浮かせてみましょう。足首の前側からすねにかけてが伸びるのを感じます。足首が硬い人は無理をせず、痛みが出ない範囲で行ってください。
カーフレイズでふくらはぎを強化
着地の衝撃に耐え、地面をしっかり蹴り出すためには、ふくらはぎの筋力が欠かせません。カーフレイズは、シンプルながら非常に効果的な補強運動です。
実践方法:
足を腰幅に開いて立ちます(壁や手すりに軽く手を添えてバランスを取ると安定します)。そのまま、かかとをできるだけ高く上げ、つま先立ちになります。一番高いところで一瞬止まり、ゆっくりとかかとを下ろします。この時、かかとが床につく直前で止め、再び上げる動作に移るとより効果的です。1セット20回を目安に、1日2〜3セット行いましょう。慣れてきたら、段差を使ってかかとを床より下げる範囲まで動かすと、可動域も同時に広げられます。
タオルギャザーで足裏のアーチを作る
足裏のアーチ(土踏まず)は、ランニング時のサスペンションの役割を果たします。アーチが潰れると足首への負担が増すため、足裏の筋肉を鍛えることが重要です。
実践方法:
椅子に座り、床にタオルを広げて置きます。裸足になり、タオルの端にかかとを置きます。そして、足の指だけを使ってタオルを手繰り寄せていきます。親指から小指まで全ての指を大きく動かすことを意識してください。タオルを最後まで手繰り寄せたら、また広げて繰り返します。これを左右それぞれ数回行います。地味な動きですが、足底筋群を鍛え、後脛骨筋腱炎や足底筋膜炎の予防に大きな効果を発揮します。
バランスディスクを使った感覚トレーニング
捻挫癖がある人や、着地が不安定な人におすすめなのが、バランス感覚を養うトレーニングです。不安定な足場でも姿勢を保とうとすることで、足首周りの細かいインナーマッスルが鍛えられます。
実践方法:
バランスディスク(クッション性のある円盤状の器具)や、厚手のクッションの上に片足で立ちます。膝を軽く曲げ、お尻や太ももの筋肉も使いながら、30秒〜1分間姿勢をキープします。グラグラするのを足首の力だけで耐えるのではなく、股関節やお腹の力を使って体全体でバランスを取る感覚を掴むことがポイントです。これにより、不整地や疲労時でもブレない強い足首が作られます。
快適に走るためのアイテム活用と環境の見直し

身体のケアと同時に見直したいのが、使用しているギアや環境です。特にシューズやインソールは、足首への負担を物理的に軽減してくれる強力な味方です。自分に合ったアイテムを正しく選ぶことで、痛みのリスクを大幅に減らすことができます。
ランニングシューズの正しい選び方と買い替え時期
シューズ選びで最も重要なのは「サイズ感」と「かかとのホールド感」です。つま先には1cm程度の余裕が必要ですが、かかと部分は隙間なくフィットしている必要があります。かかとが浮くと足首が不安定になり、無駄な力が入ってしまいます。また、足首の痛みがある場合は、「ヒールカウンター(かかとの芯)」がしっかり硬いものや、ソールのねじれを防ぐ「シャンク」が入っている安定性(スタビリティ)重視のモデルを選ぶと良いでしょう。クッション性だけに注目しすぎると、逆に沈み込みすぎて不安定になることもあります。
買い替えのサイン:
走行距離が500km〜800kmを超えると、ソールのクッション材(ミッドソール)がヘタってきます。見た目が綺麗でも衝撃吸収力は落ちているため、定期的な買い替えが必要です。また、シューズを平らな場所に置いたとき、後ろから見て極端に内側や外側に傾いている場合は、ソールが偏摩耗しており、足首を痛める原因になるので即座に交換しましょう。
インソール(中敷き)で足のバランスを整える
既製品のシューズに入っているインソールは、標準的な足の形に合わせて作られています。もしあなたが扁平足やハイアーチなどの特徴を持っている場合、専用のインソールに入れ替えるだけで劇的に走りが変わることがあります。アーチサポート機能のあるインソールは、土踏まずの落ち込みを防ぎ、オーバープロネーションによる足首のねじれを抑制してくれます。スポーツ用品店で足型計測を行い、自分の足のタイプに合ったインソール(カスタムメイドや機能性インソール)を試してみることを強くおすすめします。
テーピングやサポーターの効果的な使い方
不安がある時の補助として、テーピングやサポーターも有効です。ただし、これらはあくまで「サポート」であり、根本的な治療ではないことを理解しておきましょう。
サポーターは装着が簡単で便利ですが、頼りすぎると本来必要な筋力が衰えてしまうこともあります。痛みが強い時期や、レース後半の疲労対策として限定的に使用するなど、メリハリをつけて活用しましょう。
マラソンの足首の痛みは早期ケアと予防で克服しよう
マラソンにおける足首の痛みは、ランナーにとって避けては通れない課題の一つかもしれません。しかし、その痛みの裏には必ず原因があります。単なる使いすぎなのか、フォームの癖なのか、あるいはシューズの劣化なのか。原因を冷静に分析し、適切なケアとトレーニングを行うことで、足首のトラブルは確実に減らすことができます。
痛みが出たらまずはRICE処置と休養を優先し、焦らずに治すこと。そして、痛みが引いたら柔軟性を高めるストレッチや、地道な筋力トレーニングを行い、以前よりも強い足首を作り上げることが大切です。また、シューズやインソールといった道具の力も賢く借りましょう。自分の体と向き合い、小さな違和感を見逃さないことが、長く楽しく走り続けるための秘訣です。万全のコンディションを整え、目標のマラソン大会で最高の笑顔でゴールできることを応援しています。





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