マラソンを走る際、もっとも注意すべきトラブルの一つが「脱水症状」です。初心者からベテランまで、走る距離やレベルを問わず誰にでも起こる可能性がある一方で、正しい知識を持っていれば未然に防ぐことができます。完走を目指して練習を重ねてきた努力を無駄にしないためにも、体の中で何が起きているのかを理解することが大切です。
この記事では、マラソン中の脱水症状の初期サインや、効果的な水分補給のタイミング、さらには塩分補給の重要性について詳しく解説します。気温の変化や自分の体調に合わせた対策を知ることで、トラブルを回避する力が身につきます。安全に、そして笑顔でフィニッシュラインを越えるための具体的な方法を一緒に学んでいきましょう。
マラソンの脱水症状を見逃さない!初期サインと体への影響

マラソンは長時間にわたって大量の汗をかくスポーツであり、知らず知らずのうちに体内の水分が失われていきます。脱水状態になるとパフォーマンスが低下するだけでなく、健康に深刻なリスクを及ぼすこともあるため、自分の体の変化に敏感になることが重要です。
喉の渇きと口の中のネバつき
脱水症状の最も初期のサインは、喉の渇きです。しかし、マラソンにおいては「喉が渇いた」と感じた時点ですでに脱水が始まっていると言われています。口の中が粘つくような感覚や、唾液が出にくくなるのも危険信号の一つです。
喉の渇きを我慢して走り続けると、血液の濃度が高まり、循環が悪くなります。これによって筋肉に酸素や栄養が届きにくくなり、足が重く感じたり、思うように動かなくなったりします。少しでも違和感を覚えたら、次の給水所を待たずに水分を摂る準備をしましょう。
また、集中力が散漫になり、景色や周囲の状況に無頓着になることもあります。これは脳への血流が一時的に低下している証拠です。早めの給水は、体の動きを維持するだけでなく、最後まで冷静な判断力を保つためにも欠かせない行動と言えます。
尿の色と回数の変化によるチェック
レース中や練習中にトイレに行きたくなくなるのは、体が水分を保持しようとして尿の生成を抑えているからです。もしトイレに行った際、尿の色が濃い黄色や茶色に近い色をしていたら、それは明らかな脱水サインです。健康な状態であれば、尿の色は薄い黄色です。
マラソン中は汗として水分が出るため、トイレの回数が減るのは自然なことですが、全く行きたくならない状態が長く続くのは要注意です。特に気温が高い日は、皮膚からの蒸発量が増えるため、自覚がないまま体内の水分が枯渇していく「隠れ脱水」に陥りやすくなります。
自分の平常時の尿の色を把握しておくことで、異常に早く気付くことができます。レース前日の準備段階から尿の色をチェックし、しっかりと体が潤った状態でスタートラインに立てるよう意識しましょう。これは最も簡単で確実な体調管理の方法の一つです。
めまいや立ちくらみ、頭痛の発生
症状が進行してくると、軽いめまいや立ちくらみを感じることがあります。これは脳への血流が不足し始めているサインであり、非常に危険な状態です。頭がボーッとしたり、視界が狭くなったりする場合は、すぐにペースを落として体を休める必要があります。
さらに、ズキズキとした頭痛が始まることもあります。脱水によって脳の周囲の水分が減り、神経が刺激されることで起こる症状です。この段階で無理をして走り続けると、意識を失って倒れてしまう恐れもあるため、決して自己判断で強行してはいけません。
立ち止まった際にフラフラする、真っ直ぐ歩けないといった症状が出たら、コース脇の救護班やスタッフに助けを求めてください。自分の限界を正しく見極めることは、ランナーとして大切なスキルです。異変を感じたら「これくらい大丈夫」と思わず、休息を選択しましょう。
レース前から始まっている脱水対策と準備のポイント

当日のレース中だけでなく、スタート前の準備が脱水症状の予防に大きく関わります。体内の貯水量を最大にしておくことで、レース中の負担を軽減することができます。ここでは、前日から直前までの準備方法について確認していきましょう。
前日からの「ウォーターローディング」
レースの数日前から意識的に水分を摂取することを「ウォーターローディング」と呼びます。一度に大量の水を飲むのではなく、1日を通してコップ1杯程度の水を数回に分けて飲むのがコツです。これにより、体の細胞一つひとつに水分を行き渡らせることができます。
特にレース前日は、アルコールやカフェインの摂取を控えめにしましょう。これらには利尿作用があるため、せっかく摂った水分を体外に出してしまいます。麦茶や水、経口補水液などを選び、寝る前にも一口水分を摂るように心がけると効果的です。
ウォーターローディングを行うことで、レース後半の体温上昇を抑え、持久力を維持しやすくなるメリットもあります。特別なことではなく、日常の延長として「少し多めに、こまめに」を意識するだけで、当日の体の軽さが変わってくるはずです。
スタート当日の朝の水分補給
当日の朝は、起きてすぐに水分を摂ることから始めましょう。寝ている間にもコップ1杯分程度の汗をかいているため、まずはその分を補います。朝食と一緒に、スープや味噌汁などで水分と塩分を同時に摂取するのも非常におすすめの方法です。
スタートの1〜2時間前までに、250mlから500ml程度の水分を少しずつ飲んでおきましょう。直前にガブ飲みすると、スタート直後にトイレに行きたくなる原因になります。少しずつ時間をかけて胃に負担をかけないよう、体に浸透させていくイメージで飲み進めます。
使用する飲み物は、糖分が多すぎないスポーツドリンクや水が良いでしょう。エネルギー補給も兼ねたい場合は、ゼリー飲料を活用するのも一つの手です。自分の胃腸の具合を確認しながら、ベストなタイミングで水分を満たしておくことが完走への第一歩です。
自分の発汗量を知るための計量
効率的な補給計画を立てるためには、自分がどれくらい汗をかくタイプかを知っておくことが有効です。練習の前後で体重を測ることで、失われた水分の量を把握できます。例えば、1時間のランニングで体重が1kg減っていたら、約1リットルの水分が失われたことになります。
気温や湿度によって発汗量は変わりますが、自分の基準を知っておくことで「このペースなら30分ごとにこれくらい飲もう」という具体的な目安が立てやすくなります。特に暑い時期の練習では、こまめな計量を習慣にすることをおすすめします。
体重の減少を2%以内に抑えることが、安全なマラソンの目安とされています。60kgの人であれば1.2kgまでの減少に留めるよう、レース中に補給を繰り返す必要があります。事前のデータ収集が、本番での脱水症状を防ぐ強力な武器になるでしょう。
レース当日の朝は緊張で喉が通りにくいこともありますが、少量ずつでも必ず水分を摂りましょう。冷たすぎる飲み物は内臓を冷やして消化機能を低下させるため、常温に近いものを選ぶのが理想的です。
レース中に実践したい正しい水分と塩分の摂り方

いざレースが始まったら、計画的な補給が何よりも大切です。給水所は喉が渇いてから寄る場所ではなく、脱水を予防するために立ち寄る場所だと考えましょう。ここでは、効果的な飲み方と栄養素のバランスについて解説します。
給水所ごとのこまめな摂取
マラソン大会では数キロおきに給水所が設置されています。すべての給水所で一口ずつでも水分を摂るのが、脱水症状を防ぐ鉄則です。一度に200ml以上飲むと胃に溜まってしまい、走る動作の妨げになるため、100ml程度の少量を回数多く摂るのが理想です。
給水所が混雑している場合は、無理に最初の方のテーブルで取ろうとせず、奥のテーブルを狙うとスムーズに受け取れます。コップを受け取ったら、少し縁を折ることで飲み口が細くなり、走りながらでもこぼさずに飲むことができます。慌てず、自分のリズムを崩さないようにしましょう。
もし飲みきれなかった場合は、残った水を首筋や手首にかけることで、体温を下げる効果も期待できます。飲むだけでなく、外部からの冷却も脱水予防には有効な手段です。自分なりの給水スタイルを確立して、一定のペースで水分を補給し続けましょう。
スポーツドリンクと水の使い分け
多くの大会では、水とスポーツドリンクの両方が用意されています。基本的にはスポーツドリンクを優先して選ぶのが正解です。スポーツドリンクには、体への吸収を早める糖分や、汗で失われる電解質(ミネラル)がバランスよく含まれているからです。
水だけを大量に飲み続けると、血液中の塩分濃度が下がりすぎてしまう「低ナトリウム血症(水中毒)」を引き起こすリスクがあります。これは脱水症状と似た頭痛や吐き気を引き起こすため注意が必要です。もし水しか選べない状況であれば、後述する塩分サプリメントを併用しましょう。
ただし、スポーツドリンクの甘さが口に残って不快な場合は、スポーツドリンクを飲んだ後に水で口をゆすぐ、あるいは一口だけ水を飲むという組み合わせも効果的です。自分の体調や味の好みに合わせて、上手に2つの飲み物を使い分けていきましょう。
【飲み方のポイント】
・一気に飲まずに、口に含んでから少しずつ飲み込む
・喉が渇く前に、各給水所で100ml〜150mlを目安に補給する
・後半になればなるほど、胃の吸収能力が落ちるためより慎重に飲む
塩分タブレットやサプリメントの活用
発汗によって失われるのは水分だけではありません。ナトリウムやカリウム、マグネシウムなどのミネラルも同時に失われます。これらが不足すると、足がつる「筋痙攣」や、激しい疲労感の原因となります。スポーツドリンクだけでは補いきれない場合も多いため、塩分補給専用のアイテムを携帯しましょう。
塩分タブレットや塩飴、ジェル状のサプリメントなどは、軽量で持ち運びやすく、レース中でも手軽に摂取できます。1時間に1回、あるいは10kmごとに1錠といったように、自分なりのルールを決めて補給するのがおすすめです。特に気温が高い日は、早め早めの摂取が効果を発揮します。
最近では、タブレット以外にも経口補水パウダーを水に溶かして使う方法も人気です。自分の体に合ったものを見つけるために、練習の段階から色々なサプリメントを試しておくと良いでしょう。塩分をしっかり摂ることで、後半の粘り強い走りをサポートしてくれます。
気温や天候に合わせた脱水症状の予防法

マラソンのコンディションは天候によって大きく左右されます。晴天の暑い日はもちろんですが、雨の日や冬の寒い日でも脱水症状のリスクは存在します。状況に合わせた最適な対策を知ることで、どのような天候でも安全に走りきることができます。
高温・多湿時の冷却と補給
気温が高く湿度も高い日は、汗が蒸発しにくいため体温が急激に上昇します。この状態は最も脱水症状に陥りやすく、熱中症への警戒も必要です。水分補給の頻度を通常よりも増やし、1回あたりの摂取量もしっかり確保するように意識しましょう。
また、体を外から冷やす「外部冷却」も積極的に行います。給水所の水を使って、首の横や脇の下、太ももの付け根など太い血管が通っている場所を冷やすと、効率よく体温を下げることができます。帽子を水で濡らして被るのも、頭部の温度上昇を防ぐのに有効な手段です。
多湿の環境では、ウェアの選択も重要です。吸汗速乾性に優れた素材を選び、汗がウェアに溜まって重くならないようにしましょう。無理に設定ペースを守ろうとせず、気温に合わせて柔軟にスピードを落とす勇気を持つことが、深刻なトラブルを防ぐ最大の対策となります。
冬場の「隠れ脱水」への注意
冬のマラソンでは喉の渇きを感じにくいため、水分補給を怠ってしまうランナーが多く見られます。しかし、冬の空気は乾燥しており、吐く息からも水分が失われています。さらに、防寒のために着込みすぎると、予想以上に汗をかいてしまい、無自覚な脱水が進むことがあります。
寒さでトイレが近くなることを恐れて水分を控えるのは、非常に危険な行為です。冬場であっても、基本の給水ルールは変わりません。冷たい飲み物が苦手な場合は、口の中で少し温めてから飲み込むなどの工夫をして、体内の水分レベルを一定に保つようにしましょう。
レース前後の保温にも気を配る必要があります。スタート前に体が冷え切っていると、血流が悪くなり筋肉の代謝が低下します。適切なウェアリングで体温を一定に保ちつつ、こまめな水分補給を継続することが、冬の「隠れ脱水」を未然に防ぐポイントです。
雨天時の意外な落とし穴
雨の日のレースは、体が濡れることで冷えを感じやすいため、脱水とは無縁だと思われがちです。しかし、実際には雨に濡れることで汗をかいている感覚が麻痺し、補給を忘れてしまうことがよくあります。雨の日こそ、意識的に給水所に立ち寄る必要があります。
また、雨による体温低下を防ごうとして体が震えると、予想以上のエネルギーと水分を消費します。雨を遮るレインポンチョなどを活用しつつ、中身はしっかりとスポーツドリンクで満たしておくことが重要です。濡れた肌からは水分が奪われやすいことも覚えておきましょう。
天候に関わらず、体のメカニズムとして水分は常に消費されています。「今日は涼しいから大丈夫」という思い込みが、後半の失速や体調不良を招く原因になります。どのような天候であっても、一定のリズムで補給を行う習慣を大切にしてください。
| 天候 | 主なリスク | 重点的な対策 |
|---|---|---|
| 晴天・高温 | 急激な体温上昇と大量発汗 | 頻繁な給水と外部からの冷却 |
| 冬・乾燥 | 自覚のない「隠れ脱水」 | 喉が渇く前の定期的な給水 |
| 雨天 | 発汗の未感知、体温低下 | 意識的な補給と防寒対策 |
もし脱水症状を感じたら?現場で行うべき応急処置

どれほど対策をしていても、当日の体調や環境の変化で脱水症状が起きてしまうことはあります。大切なのは、異変を感じたときに素早く、適切な行動をとることです。自分自身、あるいは周囲のランナーが困っているときに役立つ対処法を紹介します。
すぐにペースダウンし、日陰で休む
めまいや頭痛、強い倦怠感を感じたら、まずは走るのをやめる勇気を持ってください。歩きながら様子を見るのも一つの方法ですが、症状が改善しない場合はコース脇の安全な場所に移動しましょう。直射日光を避け、風通しの良い日陰を見つけて座り込むのが理想的です。
横になる場合は、足を少し高くした状態で寝ると、心臓や脳への血流がスムーズになり、回復を早めることができます。ウェアのジッパーを下げたり、靴紐を緩めたりして、体を締め付けから解放し、呼吸を整えましょう。この段階で無理をすると、症状が一気に悪化する可能性があります。
周囲にスタッフがいる場合は、遠慮せずに声をかけてください。マラソン大会には救護体制が整っており、専門の知識を持ったスタッフが適切に判断してくれます。「これくらいで休むのは恥ずかしい」という考えは捨てて、自分の命を守るための最善の選択をしてください。
経口補水液による効率的な水分回収
脱水状態の体に最も適しているのは、水や普通のスポーツドリンクよりも「経口補水液」です。経口補水液は、水に食塩とブドウ糖を特定の比率で配合したもので、小腸での吸収速度が非常に速いという特徴があります。「飲む点滴」とも呼ばれるほど、脱水時のリカバリーに優れています。
もし手元に経口補水液がある場合は、ゆっくりと一口ずつ噛むようにして飲みましょう。一気に飲むと胃腸に負担をかけ、吐き気を催すことがあるため注意が必要です。経口補水液を飲んで「美味しい」と感じる場合は、体がかなり水分を欲しているサインでもあります。
サプリメントの塩分タブレットを水で流し込むのも代替案になりますが、可能であれば液体の状態で摂取するのが望ましいです。レース後半に備えて、エマージェンシー用として経口補水パウダーを一袋持っておくと、いざという時の大きな安心材料になります。
意識の確認とスタッフへの要請
自分だけでなく、周囲のランナーがふらついたり、うずくまったりしているのを見かけたら、声をかけて意識があるか確認してください。名前を言えるか、どこが痛むかといった簡単な質問に答えられない場合は、重度の脱水症状や熱中症の疑いがあります。
意識が朦朧としている場合は、自力で水分を飲ませようとしてはいけません。水分が気管に入り、誤嚥(ごえん)を引き起こす危険があるからです。すぐに近くの大会スタッフを呼び、救急要請を行ってください。スタッフが到着するまでは、日陰に運び、保冷剤や水で体を冷やす手助けをしましょう。
マラソンは個人競技ですが、お互いの安全を確認し合うスポーツでもあります。自分の限界を知ると同時に、周囲への気配りを持つことで、大会全体の安全性が高まります。落ち着いて状況を判断し、適切なステップで対処することが、最悪の事態を防ぐことにつながります。
マラソン中の脱水症状を防いで安全に完走するためのポイント
マラソンにおける脱水症状は、事前の準備とレース中のちょっとした意識で十分に防ぐことができるトラブルです。喉の渇きを感じる前からのこまめな給水、そして水分だけでなく塩分もセットで補給するという基本を、最後まで徹底することが大切です。
当日の天候に合わせて服装やペースを調整し、自分の体のサインに耳を傾けましょう。尿の色や発汗量、わずかな体調の変化を見逃さないことが、安全に走りきるための最大の秘訣です。無理をせず、必要であれば立ち止まって休むという決断も、ランナーとしての立派な強さです。
最後に、レースを終えた後もしばらくは脱水の危険が続きます。ゴール後は速やかに経口補水液や栄養のある食事を摂り、失われた水分とエネルギーを補ってあげましょう。正しい知識を持って脱水症状を克服し、達成感に満ちた素晴らしいマラソン体験を手に入れてください。




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