マラソンのピッチとは?理想の数値を味方につけて走力を上げよう

マラソンのピッチとは?理想の数値を味方につけて走力を上げよう
マラソンのピッチとは?理想の数値を味方につけて走力を上げよう
【トレーニング・練習】目標達成への道筋

マラソンを続けていると、タイムが伸び悩んだり、怪我に苦しんだりする壁に当たることがあります。そんなとき、多くのランナーが見直すポイントが「ピッチ」です。

ピッチとは、1分間に足が地面に着く回数のこと。このリズムをコントロールできるようになると、走りが驚くほど楽になり、怪我のリスクも減らせます。「身長が低いから不利」「足が長くないと速く走れない」と思っている方こそ、ピッチの改善が突破口になるかもしれません。この記事では、ピッチの基本から自分に合ったリズムの見つけ方、具体的なトレーニング方法までを詳しく解説します。

マラソンのピッチとストライドの基本

マラソンのタイムを決定づける要素は、実はとても単純な計算式で表せます。まずは、ランニングの速度が決まる仕組みと、ピッチが持つ役割について基本から理解していきましょう。

ピッチ走法とストライド走法の違い

ランニングの速度は、以下の計算式で成り立っています。

走る速度 = ピッチ(歩数) × ストライド(歩幅)

つまり、速く走るためには「足を速く回転させる」か「一歩を大きくする」かのどちらか、あるいは両方を高める必要があります。このどちらを重視するかによって、走法は大きく二つに分けられます。

「ピッチ走法」は、歩幅を無理に広げず、足の回転数(リズム)を上げて進む走り方です。着地衝撃が小さく、一定のリズムを刻みやすいため、体への負担が比較的少ないのが特徴です。一方、「ストライド走法」は、一歩一歩を大きく跳ぶように走る方法です。ダイナミックでスピードに乗りやすい反面、着地時の衝撃が大きく、筋力を多く消耗しやすい傾向があります。

自分に合った走法の見極め方

どちらの走法が合っているかは、身長や筋力、そしてランニングの経験値によって異なります。一般的に、身長が高いランナーは足が長いため、自然とストライドが広くなりやすく、ストライド走法が有利に働くことが多いです。

逆に、身長がそこまで高くないランナーや、日本人の骨格には、ピッチ走法が向いていると言われています。しかし、これは絶対的なルールではありません。重要なのは「自分が楽に、長く走り続けられるリズムはどちらか」という点です。試しに、少し小刻みに走ってみたり、逆に歩幅を意識して広げてみたりして、呼吸の楽さや足の疲れ具合を比較してみると良いでしょう。

初心者におすすめなのはどっち?

これからマラソンを本格的に始める方や、サブ4(フルマラソン4時間切り)を目指すランナーには、間違いなく「ピッチ走法」をおすすめします。その最大の理由は、怪我のリスクが低いからです。

初心者のうちは、着地の衝撃に耐えられるだけの脚力がまだ十分に備わっていません。その状態で無理にストライドを広げようとすると、どうしても着地位置が体の重心より前になってしまい、ブレーキをかけるような走り方になってしまいます。これでは膝や腰への負担が増すばかりです。まずはピッチを意識して、細かいリズムで体を運ぶ感覚を養うことが、長くランニングを楽しむための近道となります。

理想的なピッチ数(spm)はどれくらい?

ピッチについて調べると、必ずと言っていいほど目にする数字があります。しかし、その数字にとらわれすぎると、かえってフォームを崩してしまうこともあります。ここでは、目指すべき数値の目安について解説します。

「180spm」説の真実

ランニングの世界では「1分間に180歩(180spm)」が理想的なピッチであるとよく言われます。これは、有名なランニング指導者であるジャック・ダニエルズ氏が、オリンピック選手の走りを分析した際に、多くのメダリストが180spm前後で走っていたことから広まった説です。

確かに180という数字は、着地衝撃を抑え、バネを効率よく使えるリズムとして一つの基準にはなります。しかし、これはあくまでトップアスリートたちがレースペースで走っている時のデータが元になっています。ジョギングペースで無理やり180まで上げようとすると、逆に不自然な走りになりかねません。「180はあくまで目標の一つ」と捉え、絶対視しすぎないことが大切です。

市民ランナーの平均値

では、一般的な市民ランナーはどれくらいのピッチで走っているのでしょうか。もちろん個人差はありますが、初心者から中級者の場合、160spm〜170spmあたりで走っている方が非常に多いです。

特にゆっくりとしたジョギング(LSDなど)では、150spm台になることも珍しくありません。タイムが速くなるにつれて、自然とピッチも上がっていく傾向にあります。例えば、サブ3(3時間切り)を達成するようなランナーになると、やはり180spm以上に達しているケースが多くなります。今の自分のピッチが160台であっても、それは決して悪いことではありません。走力向上とともに少しずつ上がっていくものだと考えましょう。

身長や走力による違い

ピッチの最適解は、身長によっても変わります。同じ速度で走る場合、身長が高い(足が長い)人はストライドが広くなるため、ピッチはやや少なめになります。逆に、小柄なランナーはストライドが短くなる分、ピッチを上げて速度を稼ぐ必要があります。

例えば、身長180cmのランナーが170spmで走るスピードと、身長160cmのランナーが180spmで走るスピードが同じくらいになることもあります。つまり、「誰でも彼でも180spmを目指すべき」というのは少々乱暴な話なのです。自分の身長や、現在の走力(スピード)に見合った、無理のないリズムを探ることが重要です。心地よいと感じるリズムから、プラス5回〜10回程度増やしてみる意識から始めてみましょう。

ピッチを意識することで得られる3つの大きな効果

なぜ多くの指導者が「ピッチを上げましょう」とアドバイスするのでしょうか。それは単にスピードが出るからという理由だけではありません。ランナーにとって嬉しいメリットがたくさんあるからです。

着地衝撃の分散と怪我の予防

ピッチを上げる最大のメリットは、怪我の予防です。ピッチが低い(歩数が少ない)ということは、それだけ一歩の滞空時間が長く、ジャンプしている時間が長いことを意味します。高く飛び上がれば飛び上がるほど、着地した時に地面から受ける衝撃は大きくなります。

逆に、ピッチを上げて小刻みに走ると、体の上下動(垂直方向への揺れ)が小さくなります。これにより、着地時の衝撃が大幅に分散されます。膝や足首、ふくらはぎの痛み(シンスプリントなど)に悩んでいるランナーの多くは、無意識にストライドが広すぎて上下動が大きくなっているケースが多々あります。ピッチを意識することは、体を守るクッションの役割を果たしてくれるのです。

ランニングエコノミー(燃費)の向上

マラソンは42.195kmという長い距離を走り切るスポーツです。いかにエネルギーを無駄遣いせずに走るか、つまり「燃費(ランニングエコノミー)」が重要になります。ピッチ走法は、この燃費向上に大きく貢献します。

ストライドを無理に広げて走ると、着地のたびに太ももの前側の筋肉を使ってブレーキをかけ、そこから再び体を持ち上げるために大きな筋力を使います。これは、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状態で、エネルギーの浪費です。ピッチを速めると、足が体の真下近くに着地しやすくなり、ブレーキ要素が減ります。転がるようにスムーズに足を運べるため、筋肉の無駄遣いが減り、レース後半までスタミナを残しやすくなります。

レース後半の失速を防ぐリズム維持

マラソンの30km以降、いわゆる「30kmの壁」に当たったとき、足が重くなり動かなくなる経験をしたことがある方は多いでしょう。筋力が限界に近づいたとき、広いストライドを維持して走るのは非常に困難です。

しかし、普段からピッチ(リズム)で走る癖をつけておくと、疲れてきたときこそ役立ちます。「足の筋肉で走る」のではなく、「一定のリズムで刻む」ことに意識を切り替えるのです。筋力が低下しても、腕振りに合わせて「1・2・1・2」とリズムだけで体を前に進めることができます。ピッチ走法は、苦しい場面で自分を助けてくれるペースメーカーのような存在になってくれます。

自分のピッチを正確に計測する方法

ピッチの重要性がわかったところで、まずは自分の現状を知ることから始めましょう。今は便利なツールがたくさんありますので、自分に合った方法で計測してみてください。

ランニングウォッチやアプリの活用

最も手軽で正確なのは、GPS機能付きのランニングウォッチ(Garmin、COROS、Apple Watchなど)を使うことです。これらの時計は、腕の振りや体の振動を感知して、走行中のピッチ(spm)をリアルタイムで表示してくれます。

走り終わった後にスマートフォンのアプリと同期すれば、ペースごとのピッチの変化や、疲れてきた後半にどれくらいピッチが落ちたかなどをグラフで確認できます。「調子が良いときは175spmで走れているな」「疲れると160spmまで落ちているな」といった分析ができるようになると、トレーニングの質がグッと上がります。最近ではスマートフォン単体で、ポケットに入れているだけで計測してくれる無料アプリも増えています。

走りながら自分で数えるアナログな方法

専用のウォッチを持っていなくても、普通の時計さえあれば計測は可能です。走りながら、片方の足(例えば右足)が地面に着く回数を数えてみてください。

【計測手順】
1. 時計の秒針が0になった瞬間に数え始める。
2. 15秒間だけ、右足の着地回数を数える。
3. その数に「8」を掛ける。

なぜ8を掛けるかというと、15秒は1分の4分の1であり、右足だけでなく左足の分(2倍)も合わせる必要があるからです(4×2=8)。例えば、15秒で右足が21回着地したなら、21×8=168spmとなります。走りながら計算するのは大変なので、「15秒で22回〜23回つけば、だいたい180前後になる」と覚えておくと便利です。

音楽(BPM)を使ってリズムを測る

音楽のテンポ(BPM:Beats Per Minute)を利用する方法も楽しくておすすめです。BPM170やBPM180の曲を集めたプレイリストを作成し、そのリズムに合わせて走ってみるのです。

もし曲のリズムと自分の足音がぴったり合えば、その曲のBPMがそのままあなたのピッチになります。「この曲で走ると気持ちいい」と感じるなら、そのテンポが現在の快適なピッチです。「もう少しピッチを上げたい」と思ったら、今より少しBPMが速い曲を選んで、そのビートに合わせて走る練習をするのも効果的です。Spotifyなどの音楽アプリには、ランニング用のBPM別プレイリストが多数用意されています。

誰でも実践できる!ピッチを自然に上げるトレーニング

「ピッチを上げよう」と意識するあまり、ただ足をバタバタさせてしまうのはNGです。フォームを崩さず、自然と回転数を上げるための具体的なトレーニング方法を4つ紹介します。

腕振りをコンパクトにしてリズムを作る

足の動きと腕の動きは連動しています。人間の体は、腕を速く振れば、自然と足も速く動くようにできています。ピッチを上げるための一番の近道は、実は「足」ではなく「腕」の意識を変えることです。

具体的には、肘を90度くらいに曲げ、少し後ろに引く意識でコンパクトに振ります。長距離ランナーに多い、腕をだらんと下げて大きく振るフォームは、リズムがゆったりしてしまうためピッチが上がりません。拳を胸の高さあたりまで持っていき、小さく鋭く振るイメージを持つと、それに引っ張られて足の回転も自然と速くなります。「足が動かなくなったら腕を振る」は、マラソンの鉄則です。

メトロノーム機能を活用した練習法

文明の利器を頼るのも賢い方法です。電子メトロノームや、スマホのメトロノームアプリを使います。イヤホンでカチッカチッという音を聞きながら、そのリズムに合わせて走ります。

いきなり目標の数値(例えば180)に設定するのではなく、まずは今の自分の平均ピッチプラス5くらいに設定します。そのリズムに慣れてきたら、さらにプラス5……というように、段階的に上げていくのがコツです。音に合わせることで強制的に足を出さざるを得なくなるため、体(脳)が速いリズムを覚え込みます。ただし、ずっと音を聞いていると精神的に疲れるので、週に1回などポイント練習として取り入れるのがおすすめです。

接地時間を短くする意識とドリル

ピッチが上がらない原因の一つに、「地面に足が着いている時間が長い」ことが挙げられます。地面に足をべったりとつけて、よいしょと蹴り出すような走り方では、次の動作に移るのが遅れてしまいます。

イメージしてほしいのは「熱い鉄板の上」です。裸足で熱い鉄板の上に立ったら、火傷しないように素早く足を上げ下げするはずです。あそこまで極端ではなくても、地面に着いた瞬間にすぐ足を引き上げる意識を持ちましょう。その場での「もも上げ」や「縄跳び(エア縄跳びでも可)」は、素早い接地感覚を養うのに最適なドリルです。走る前に1分ほど行うだけでも、足の切れが変わってきます。

坂道ダッシュで素早い動きを覚える

平地だけではなく、坂道を利用するのも効果的です。特に「緩やかな下り坂」は、ピッチ向上の絶好の練習場所です。下り坂では重力の助けを借りて、平地よりも楽にスピードが出せます。このとき、ストライドを広げて走ると衝撃が強すぎて危険なので、体は自然とピッチを上げてブレーキをかけないように走ろうとします。

この「勝手に足が回ってしまう感覚」を体に覚え込ませるのです。50m〜100m程度の緩い下り坂を、力を抜いてタタタタッと駆け下りる。これを数本繰り返した後、平地に戻って走ってみると、驚くほど足が軽く回る感覚が得られるはずです。逆に上り坂ダッシュは、地面を素早く押す筋力アップに繋がるので、両方組み合わせると最強のトレーニングになります。

ピッチ走法で陥りやすい注意点と対策

ピッチを上げることは多くのメリットをもたらしますが、やり方を間違えると逆効果になることもあります。ここでは、トレーニング中に気をつけたいポイントを解説します。

ちょこまか走り(すり足)にならないように

「歩幅を狭くして回転数を上げる」ことだけを意識しすぎると、足がほとんど上がらず、地面を擦るような「すり足」になってしまうことがあります。これではストライドが極端に短くなりすぎて、いくら回転させても前に進みません。

ピッチ走法であっても、最低限の太ももの引き上げや、地面からの反発をもらう動きは必要です。ただ小さく走るのではなく、「体の真下で地面をパンと叩く」ようなイメージを持ちましょう。腰の位置が高く保たれていれば、自然と足は前に出ます。フォームが縮こまっていないか、時々ショーウィンドウなどで自分の姿をチェックしてみてください。

心拍数の上昇と呼吸の合わせ方

今まで160spmで走っていた人が、急に170spm、180spmに上げようとすると、当然ですが運動量が増え、心拍数が急上昇します。「ピッチ走法は楽だと言ったのに、全然きついじゃないか!」と感じるかもしれません。

これは、慣れない動きによって無駄な力が入っていることと、心肺機能が新しいリズムに追いついていないことが原因です。最初は「1分間だけピッチを上げて、3分間は元に戻す」といったインターバルのような形から始めましょう。また、呼吸のリズムも大切です。「スッスッ、ハッハッ」と足のリズムに合わせて呼吸を整えることで、徐々に心拍数の上昇も落ち着いてきます。焦らず、体を慣らしていく期間が必要です。

無理に上げすぎることのリスク

「180が正義」と思い込み、身長や骨格を無視して無理やりピッチを上げ続けると、股関節周りや太ももの付け根を痛める可能性があります。特に、無理に足を速く動かそうとして筋肉が緊張した状態が続くと、肉離れなどのトラブルにもつながりかねません。

大切なのは「自然な回転」です。リラックスして腕を振っていたら、結果としてピッチが上がっていた、というのが理想の状態です。トレーニング中に違和感や強い張りを感じたら、一度ペースを落とし、元の慣れたリズムに戻してください。数値はあくまで結果であり、目的は「怪我なく速く走ること」であることを忘れないようにしましょう。

まとめ

まとめ
まとめ

マラソンのピッチは、単なる数字ではなく、あなたの走りを支える「リズム」そのものです。最後に、今回の重要ポイントを振り返りましょう。

【記事の要点】

・ピッチ走法は着地衝撃が少なく、怪我予防に最適
・「180spm」はあくまで目安。自分に合ったリズムを探そう
・ピッチを上げる鍵は「腕振り」と「接地時間」
・GPSウォッチや音楽を活用して、楽しみながら計測する

身長や筋力、走力によって、心地よいピッチは一人ひとり異なります。無理にトップアスリートの真似をする必要はありません。まずは今の自分のリズムを知り、そこから少しずつ回転数を上げる練習を取り入れてみてください。

自分だけのリズムが見つかったとき、マラソンの景色はガラリと変わります。後半になっても足が止まらず、軽やかにゴールまで駆け抜ける感覚を、ぜひ味わってください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました