「マラソンの練習中にふくらはぎが痛くなってしまった」「レース後半になると必ずふくらはぎがつってしまう」
ランナーにとって、ふくらはぎの痛みは非常に身近でありながら、走る楽しみを奪ってしまう厄介な悩みです。特にフルマラソンのような長距離を走る場合、ふくらはぎには体重の数倍もの衝撃が何万回と繰り返しかかります。
痛みを我慢して走り続けると、単なる筋肉痛だと思っていたものが、肉離れやアキレス腱炎といった長期離脱を余儀なくされる怪我につながることもあります。しかし、痛みの原因を正しく理解し、適切なケアとフォーム改善を行えば、トラブルを未然に防ぐことができます。
この記事では、マラソンにおけるふくらはぎの痛みの原因から、痛みが出た瞬間の緊急対処法、そして痛まない脚を作るための予防策までをわかりやすく解説します。快適に走り続けるための知識を身につけましょう。
マラソン中にふくらはぎの痛みを感じる主な原因

マラソンやランニングにおいて、なぜふくらはぎにこれほどまで負担がかかるのでしょうか。痛みが発生するには必ず理由があります。まずは自分の痛みがどこから来ているのか、主な原因を探っていきましょう。
着地衝撃と筋肉のオーバーユース
最も基本的な原因は、筋肉の使いすぎ、いわゆるオーバーユースです。ランニング中、着地のたびにふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)はバネのように収縮と伸張を繰り返します。その負荷は体重の3倍以上とも言われています。
フルマラソンでは約3万歩から4万歩ものステップを踏むことになります。その一歩一歩の衝撃をふくらはぎだけで受け止めてしまえば、筋肉の繊維が微細な損傷を繰り返し、やがて限界を迎えて痛みを発します。特に、練習量を急激に増やした時期や、久しぶりに長い距離を走った直後には、このオーバーユースによる痛みが顕著に現れます。
ランニングフォームの崩れ(つま先着地・蹴り出し)
ふくらはぎへの負担を大きく左右するのが「ランニングフォーム」です。特に初心者やスピードを意識しすぎたランナーに多いのが、過度な「つま先着地(フォアフット)」や、地面を強く「蹴る」走り方です。
ふくらはぎの筋肉は、足首を伸ばして地面を蹴る動作で強く働きます。必要以上に足首の力を使って前に進もうとすると、推進力を得る代償としてふくらはぎが酷使されます。また、重心が後ろに残ったまま脚だけで走ろうとすると、着地の瞬間にブレーキがかかり、その衝撃をふくらはぎが吸収しなければならなくなります。
水分・ミネラル不足による筋肉の痙攣
レース後半や暑い日のランニングで起きやすいのが、脱水やミネラル不足による痛みです。汗をかくと、水分とともにナトリウムやマグネシウム、カリウムといった電解質(ミネラル)が体外へ失われます。
これらのミネラルは、筋肉の収縮と弛緩を調整する重要な役割を担っています。体内のミネラルバランスが崩れると、脳からの「筋肉を緩めろ」という指令がうまく伝わらなくなり、筋肉が過剰に収縮したままロックされてしまいます。これが、いわゆる「足がつる」状態や、激しい痛みを伴う痙攣の正体です。
シューズの摩耗や不適合
意外と見落としがちなのが、ランニングシューズの状態です。シューズのソール(靴底)がすり減っていると、クッション性が低下し、着地の衝撃がダイレクトに脚へ伝わります。特にカカトの外側が極端に削れている場合、着地が不安定になり、バランスを取ろうとしてふくらはぎに余計な力が入ります。
また、自分の足に合っていないシューズも原因の一つです。サイズが大きすぎて靴の中で足が遊んでしまうと、無意識に足指で踏ん張ってしまい、ふくらはぎが常に緊張状態になります。逆に、ドロップ(つま先とカカトの高低差)が低いシューズを急に履くと、アキレス腱からふくらはぎが強く伸ばされ、痛みにつながることがあります。
痛みの種類で見極める!筋肉痛・つり・肉離れの違い

「ふくらはぎが痛い」といっても、その症状はさまざまです。ただの疲れであれば休めば治りますが、深刻な怪我であれば即座に走るのをやめる必要があります。ここでは、痛みの種類を見極めるポイントを解説します。
遅発性筋肉痛(いわゆる普通の筋肉痛)
走った翌日や翌々日にやってくる痛みは、一般的に「遅発性筋肉痛(DOMS)」と呼ばれます。これは、運動によって傷ついた筋繊維を修復しようとする過程で炎症が起きる生理的な反応です。
特徴としては、筋肉全体が重だるく感じたり、押すと痛みがあったりしますが、ストレッチをしてゆっくり伸ばすと「痛気持ちいい」感覚があります。これはトレーニング効果が出ている証拠でもあり、数日休養をとれば自然に回復します。ただし、痛みが強すぎて歩行が困難な場合は、炎症が強すぎるためアイシングなどのケアが必要です。
こむら返り(足のつり)
「こむら返り」は、ふくらはぎの筋肉(腓腹筋)が突然、意思とは無関係に強烈に収縮して痙攣する現象です。医学的には「筋痙攣(きんけいれん)」と呼ばれます。
特徴的なのは、痛みの発生が「突然」であることです。走っている最中や、走り終わった後に急に「ピキーン!」と固まり、激痛が走ります。患部を触ると筋肉がカチカチに硬直しているのがわかります。原因は前述の通り、ミネラル不足や冷え、筋肉疲労が主です。痛みは強烈ですが、適切に伸ばしてミネラルを補給すれば、その場で回復して歩けるようになることが多いです。
肉離れ(筋断裂)
最も警戒すべきなのが「肉離れ」です。これは筋肉の繊維が部分的に、あるいは完全に断裂してしまった状態です。こむら返りと違い、筋肉自体の構造が壊れています。
発症時は、「バチッ」「ブチッ」という何かが切れるような音(断裂音)や衝撃を感じることがあります。また、「誰かに後ろからボールをぶつけられたような衝撃」と表現されることもあります。肉離れの特徴は、ストレッチをしようとすると激痛が走ることです。また、つま先立ちができなくなったり、内出血で皮膚が変色したりすることもあります。この疑いがある場合は、絶対に無理に伸ばしてはいけません。
アキレス腱周囲炎・シンスプリント
ふくらはぎの筋肉はアキレス腱につながり、カカトの骨に付着しています。ふくらはぎの筋肉が硬くなると、アキレス腱が常に引っ張られた状態になり、炎症を起こすのが「アキレス腱炎」や「アキレス腱周囲炎」です。アキレス腱をつまむと痛かったり、動き始めに痛むのが特徴です。
また、ふくらはぎの内側、すねの骨(脛骨)のキワが痛む場合は「シンスプリント(過労性骨膜炎)」の可能性があります。これはヒラメ筋などの筋肉が骨の膜を引っ張り続けることで炎症が起きる障害です。どちらも慢性的なオーバーユースが原因であり、痛みを無視して走り続けると疲労骨折につながる恐れがあるため注意が必要です。
走っている最中に痛くなった時の緊急処置

もし、マラソン大会の本番中や、家から遠く離れたランニングコースでふくらはぎに激痛が走ったらどうすればよいでしょうか。その場の判断が、その後の回復を大きく左右します。
まずは「立ち止まる」勇気を持つ
痛みを少しでも感じた時、多くのランナーは「ペースを落とせば大丈夫」「フォームを変えれば走れる」と考えがちです。しかし、鋭い痛みを感じた場合は、即座に立ち止まって安全な場所に移動してください。
特に「肉離れ」の可能性がある場合、無理に走ると断裂部分が広がり、全治数週間の怪我が数ヶ月単位の重症になってしまいます。タイムや完走も大切ですが、長くランニングライフを楽しむためには、ここで「止まる」という判断が最大の防御になります。
こむら返りの場合のストレッチ方法
痛みの原因が「こむら返り(つり)」だと判断できた場合(筋肉が硬直して痙攣している場合)は、収縮した筋肉をゆっくりと伸ばすことで症状が緩和します。
まずはリラックスして座り、痛む方の脚を投げ出します。つま先を手で持ち、ゆっくりと自分の体の方へ引き寄せてください。この時、膝が曲がらないように注意します。手で届かない場合は、タオルをつま先に引っ掛けて引っ張ると良いでしょう。
重要なのは「反動をつけない」ことです。急激に引っ張ると、痙攣している筋肉が過剰に反応して肉離れを起こす危険があります。息を吐きながら、じわじわと伸ばしましょう。
脱水・ミネラル補給を行う
こむら返りや筋肉の過緊張が原因の場合、体内では水分とミネラルが枯渇しています。ストレッチで一時的に痛みが引いても、成分が不足したままだとすぐに再発します。
携帯しているスポーツドリンクや、エイドステーションにある塩飴、梅干しなどを摂取してください。最近では、即効性のあるマグネシウム含有のジェルやサプリメントも販売されています。痛みが出た時だけでなく、「ふくらはぎがピクピクしてきたな」という予兆を感じた段階で摂取するのが最も効果的です。
ふくらはぎの痛みを予防する効果的なストレッチとケア

ふくらはぎの痛みを出さないためには、日頃のケアで筋肉の柔軟性を保つことが何より重要です。練習後の「アフターケア」を習慣化しましょう。
腓腹筋(ひふくきん)のストレッチ
ふくらはぎの最も表面にある大きな筋肉が「腓腹筋」です。これは膝関節と足首の関節をまたぐ「二関節筋」であるため、膝を伸ばした状態でストレッチする必要があります。
【腓腹筋ストレッチの手順】
1. 壁の前に立ち、両手を壁につきます。
2. 伸ばしたい方の足を大きく一歩後ろに下げます。
3. 後ろ足の膝を「真っ直ぐ伸ばしたまま」カカトを床に押し付けます。
4. 前の足に体重を移動させ、後ろ足のふくらはぎ上部が伸びるのを感じます。
5. 息を止めずに30秒間キープします。
ポイントは、後ろ足のつま先を真っ直ぐ前に向けることです。つま先が外を向いていると、効果的に伸びません。
ヒラメ筋のストレッチ
腓腹筋の奥にあり、持久力を司るのが「ヒラメ筋」です。こちらは足首の関節のみに関与するため、膝を曲げた状態でストレッチします。多くのランナーは膝を伸ばしたストレッチしかしませんが、ヒラメ筋のケアも不可欠です。
【ヒラメ筋ストレッチの手順】
1. 壁の前に立ち、両手を壁につきます。
2. 伸ばしたい方の足を半歩だけ後ろに下げます(腓腹筋の時より狭く)。
3. 後ろ足の「膝を軽く曲げながら」カカトを床に押し付けます。
4. 重心を真下に落とすようにして、アキレス腱からふくらはぎ下部が伸びるのを感じます。
5. 30秒間キープします。
この2種類のストレッチをセットで行うことで、ふくらはぎ全体をくまなくケアできます。
フォームローラーでの筋膜リリース
筋肉が硬くなりすぎてストレッチでは伸びにくい場合や、特定の箇所にコリがある場合は、フォームローラーを使った筋膜リリースが有効です。
床に座り、ローラーの上にふくらはぎを乗せます。反対の足を上に乗せて重みを加え、お尻を浮かせてコロコロと前後に動かします。特に痛みを感じるポイント(トリガーポイント)があれば、そこで動きを止めて、足首をパタパタと動かしてください。
これにより、癒着した筋膜が剥がれ、血流が一気に改善します。ただし、激痛を感じるほど強くやるのは逆効果ですので、「痛気持ちいい」範囲で行いましょう。
再発させないためのフォーム改善と筋力トレーニング

ストレッチで柔軟性を高めるのと同時に、そもそも「ふくらはぎに負担をかけない走り方」を身につけることが根本的な解決策です。
「お尻」を使って走る感覚を掴む
ふくらはぎが痛くなるランナーの多くは、膝から下の筋肉だけで走る「手打ち」ならぬ「足打ち」の状態になっています。ふくらはぎは小さな筋肉なので、すぐに疲労困憊してしまいます。
対策は、太ももやお尻(大殿筋・ハムストリングス)といった、股関節周りの大きな筋肉をメインエンジンにすることです。地面を「蹴る」のではなく、股関節から脚全体を「後ろに引く」イメージや、骨盤を前に進めるイメージを持ってください。
みぞおちから脚が生えているような感覚で走ることで、着地衝撃をお尻の大きな筋肉で受け止められるようになり、ふくらはぎへの負担は激減します。
カーフレイズで基礎筋力をつける
負担を減らすと同時に、ふくらはぎ自体の耐久性を上げることも大切です。基本的な補強運動として「カーフレイズ(カカト上げ)」を取り入れましょう。
やり方は簡単です。
段差のある場所(階段など)につま先を乗せ、カカトをゆっくり下ろしてストレッチさせ、そこから親指の付け根(母指球)を意識してカカトを高く持ち上げます。
これを20回×3セット程度行います。地味なトレーニングですが、ふくらはぎの筋持久力が向上し、レース後半でも攣りにくい脚を作ることができます。
ランニングタイツやソックスの活用
道具の力を借りるのも賢い選択です。ふくらはぎを圧迫する「コンプレッションソックス」や「カーフスリーブ」は、筋肉の無駄な揺れを抑える効果があります。
着地のたびに筋肉はブルブルと揺れ、これが疲労の原因の一つになります。適度な着圧で筋肉をホールドすることで、疲労の蓄積を遅らせることができます。また、血流を促進する効果(ポンプ作用の補助)もあるため、老廃物が流れやすくなり、こむら返りの予防にもつながります。
テーピングで筋肉をサポートする
レース本番や、少し不安がある練習時にはテーピングが有効です。専門的な知識がなくても貼れる簡単な方法があります。
キネシオロジーテープ(伸縮性のあるテープ)を、ふくらはぎの長さに合わせてカットします。足首を90度に曲げ、アキレス腱の付け根(カカト側)から、ふくらはぎの筋肉を包み込むように膝裏の手前までY字に貼るか、筋肉の中央に沿ってI字に貼ります。
これにより、人工的な筋肉が1枚追加されたような状態になり、本物の筋肉への負担を分散してくれます。
まとめ:マラソンのふくらはぎの痛みは早期ケアで解消しよう
マラソンにおけるふくらはぎの痛みは、ランナーからの「SOSサイン」です。そのサインを無視して走り続ければ大きな怪我につながりますが、適切に対応すれば、より効率的なフォームを手に入れるチャンスにもなります。
最後に、ふくらはぎの痛み対策のポイントを振り返ります。
【ふくらはぎトラブル回避の鉄則】
・原因を知る:オーバーユース、フォーム、シューズ、水分不足のどれかを見極める。
・痛みの種類:「筋肉痛」は休養、「こむら返り」は伸ばして補給、「肉離れ」は絶対安静。
・アフターケア:膝を伸ばすストレッチ(腓腹筋)と、膝を曲げるストレッチ(ヒラメ筋)の両方を行う。
・フォーム改善:地面を蹴らず、お尻や股関節を使って走る。
・予防アイテム:コンプレッションソックスやテーピングを積極的に活用する。
「ふくらはぎが痛くない」というだけで、ランニングは驚くほど快適で楽しいものになります。日々のケアを丁寧に行い、不安のない状態でスタートラインに立てるよう準備していきましょう。





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