「マラソン」と「ワイン」。一見すると、スポーツとアルコールという水と油のような関係に思えるかもしれません。しかし、世界にはこの2つを同時に楽しんでしまう夢のような大会が存在することをご存知でしょうか?
走ることの爽快感と、ワインの芳醇な味わいを一度に満喫できるイベントは、ランナーのみならずワイン愛好家からも熱い視線を集めています。また、適度なワイン摂取がランナーの体に与える影響についても、近年さまざまな研究が進んでいます。
この記事では、給水所でワインが振る舞われる世界的に有名な大会から、日本国内で楽しめる関連イベント、さらにはランナーが知っておきたいアルコールとの付き合い方までを幅広くご紹介します。
マラソンとワインが融合した夢の祭典「メドックマラソン」

マラソンとワインを語る上で欠かせないのが、フランスで開催される「メドックマラソン(Marathon du Médoc)」です。世界中のランナーが「一度は走ってみたい」と憧れる、このユニークな大会の全貌に迫ります。
フランス・ボルドーで開催される仮装と美食の祭典
メドックマラソンは、赤ワインの銘醸地として名高いフランス南西部のボルドー・メドック地区で毎年9月に開催されます。この大会の最大の特徴は、真剣にタイムを競うことよりも「楽しむこと」に重きが置かれている点です。
参加者の9割以上がユニークな仮装をして走ることで知られており、毎年発表されるテーマに合わせて、ランナーたちは工夫を凝らした衣装でブドウ畑の中を駆け抜けます。沿道の応援も熱狂的で、まるでお祭りのような賑やかな雰囲気が42.195kmずっと続きます。
給水所ならぬ「給ワイン所」が20箇所以上も!
通常の大会ではスポーツドリンクや水が置かれている給水所ですが、メドックマラソンでは様子が異なります。コース上にはなんと20箇所以上もの「給ワイン所」が設置されているのです。
しかも、提供されるのはただのワインではありません。「シャトー・ラフィット・ロートシルト」や「シャトー・ムートン・ロートシルト」といった、世界的に有名な高級ワイナリー(シャトー)の敷地内を走り、そこで作られた自慢のワインを試飲できるという贅沢さです。走りながら高級ワインを飲み歩く(走り歩く?)体験は、この大会でしか味わえない醍醐味です。
牡蠣にステーキ?フルコースのようなエイドステーション
ワインだけでなく、食事(エイド)の豪華さも規格外です。コースの前半はバナナやオレンジなどのフルーツが中心ですが、後半になるとフランス料理のフルコースのようなメニューが登場します。
38km地点付近では生ガキが、39km地点ではステーキが振る舞われ、さらにはチーズやアイスクリームまで用意されています。ゴール目前でお腹いっぱいになってしまうランナーも続出しますが、美食とワインに酔いしれながらゴールを目指す幸福感は格別です。
完走賞も豪華!ワイン好きにはたまらない特典
制限時間である6時間30分以内に完走すると、記念メダルに加えて、メドック産の高級ワインがボトルごとプレゼントされます。参加賞としてオリジナルワインが配られることもあり、帰りの荷物は重くなりますが、心は満たされること間違いありません。
ちなみに、優勝者には「体重と同じ重さのワイン」が贈られるというユニークな伝統もあります。勝利の美酒を文字通り浴びるほど楽しめる、まさにワイン好きのための大会と言えるでしょう。
日本国内でも楽しめる!ワインや特産品を味わえるマラソン大会

フランスまでは行けなくても、日本国内には地元のワインや美食を楽しめるマラソン大会がいくつも存在します。ランニングと観光を兼ねて参加できる、おすすめの大会を見ていきましょう。
東北風土マラソン&フェスティバル(宮城県)
宮城県登米市で開催される「東北風土マラソン」は、なんと本家フランスのメドックマラソンが認める「姉妹大会」のような位置づけのイベントです。メドックの精神を受け継ぎ、東北の豊かな食材と日本酒、そしてワインを楽しむことができます。
エイドステーションでは、東北地方の特産品がこれでもかと言うほど振る舞われます。ワインだけでなく、仕込み水や甘酒なども提供されることがあり、ファンラン(楽しみながら走ること)を目的としたランナーに絶大な人気を誇っています。
南陽さわやかワインマラソン(山形県)
山形県南陽市は、古くからブドウ栽培とワイン造りが盛んな地域です。この地で開催される「南陽さわやかワインマラソン」は、その名の通りワインをテーマにした大会として親しまれています。
参加賞としてハーフマラソンの部などでは地元のワイナリーで作られたフルボトルのワインがもらえるのが大きな魅力です(未成年や希望者にはジュースなどが選べます)。コースからは美しいブドウ畑の風景を望むことができ、レース後には温泉で汗を流してワインで乾杯するという、至福の休日を過ごせます。
甲州フルーツマラソン(山梨県)
日本ワインの発祥地とも言われる山梨県甲州市で開催される「甲州フルーツマラソン」。秋の収穫シーズンに行われることが多く、ブドウや桃などのフルーツとワインの香りに包まれた大会です。
メイン会場ではワインの試飲販売や、ぶどうジュースのサービスが行われることがあり、走った後の喉を潤してくれます。激しいアップダウンのあるコースとしても有名ですが、ゴール後に待っているワインとフルーツの味は、疲れを吹き飛ばしてくれるでしょう。
リレーマラソンなどでワインが賞品になるケースも
大規模な市民マラソンだけでなく、公園などで開催されるリレーマラソンやファンランイベントでも、ワインが関わることがあります。「ワインラン」と銘打って、周回ごとにワインを試飲できるイベントや、上位入賞チームへの賞品として高級ワインが用意される大会も増えています。
こうした小規模なイベントは、友人や職場の仲間とチームを組んで参加しやすく、レース後の打ち上げも含めて一日中楽しめるのがメリットです。近くで開催されていないか、Web検索してみるのもおすすめです。
ランナーにとってのワインの効果!赤ワインのポリフェノールに注目

「お酒は筋肉に悪い」とよく言われますが、ワイン、特に赤ワインにはランナーにとって嬉しい健康効果も期待されています。ここでは、栄養面から見たワインのメリットについて解説します。
強力な抗酸化作用で体のサビつきを防ぐ
マラソンのような激しい有酸素運動を行うと、体内では呼吸によって大量の酸素が消費され、その一部が「活性酸素」に変わります。活性酸素は細胞を傷つけ、老化や疲労の原因となる、いわば「体のサビ」のようなものです。
赤ワインに豊富に含まれる「ポリフェノール」には、この活性酸素を除去する強力な抗酸化作用があります。適度な摂取であれば、ハードなトレーニングで生じた酸化ストレスを軽減し、体の内側からコンディションを整える手助けをしてくれる可能性があります。
心血管疾患のリスク低減と血流改善への期待
赤ワインの健康効果として有名なのが「フレンチ・パラドックス(フランスの逆説)」です。動物性脂肪を多く摂取するフランス人に心臓病が少ないのは、赤ワインを常飲しているからだという説です。
ポリフェノールの一種である「レスベラトロール」や「プロシアニジン」は、血管の柔軟性を保ち、血流をスムーズにする効果が期待されています。全身に酸素を運ぶ必要があるランナーにとって、血管の健康はパフォーマンス維持の重要な鍵となります。
リラックス効果でレース前の緊張を和らげる?
適量のアルコールには、精神的な緊張をほぐし、リラックスさせる効果があります。真面目なランナーほど、レース前やきついトレーニングの後に交感神経が高ぶりすぎて、うまく休息に入れないことがあります。
夕食時にグラス1杯程度のワインをたしなむことで、副交感神経を優位にし、スムーズな入眠やメンタル面でのリカバリーにつながる場合があります。香りを楽しみながらゆっくり味わう時間は、心の栄養補給にもなるでしょう。
適量を守ることが鉄則!飲み過ぎは逆効果
いくら体に良い成分が含まれていても、アルコールであることに変わりはありません。飲み過ぎれば肝臓に負担をかけ、睡眠の質を低下させ、翌日のパフォーマンスを劇的に下げてしまいます。
健康効果を期待できる適量(目安)
・男性:グラス2杯程度(約200ml〜300ml)
・女性:グラス1杯程度(約100ml〜150ml)
あくまで「適量」を守ることが、ランニングライフとワインを共存させるための絶対条件です。
お酒を飲んで走る際のリスクと注意点を知っておこう

メドックマラソンのような特別なイベントを除き、基本的には「飲酒してからのランニング」は推奨されません。ここでは、アルコールがランニング中の体に及ぼすリスクについて、正しく理解しておきましょう。
アルコールによる利尿作用と脱水症状の危険性
アルコールには強力な利尿作用があります。ビールやワインを飲むと、摂取した水分以上の量が尿として排出されてしまうと言われています。つまり、飲めば飲むほど体は脱水状態に近づいていくのです。
ランニング中は汗で水分が失われるため、そこにお酒の利尿作用が加わると、重度の脱水症状や熱中症を引き起こすリスクが跳ね上がります。「給水代わりにビールやワイン」というのは、生理学的には非常に危険な行為であることを忘れてはいけません。
判断力や運動機能の低下による転倒リスク
ほろ酔い気分で走るのは気持ちが良いかもしれませんが、脳の機能は確実に低下しています。平衡感覚が鈍くなり、足元への注意力が散漫になるため、転倒して怪我をする可能性が高くなります。
特にマラソン後半の疲労が蓄積した状態では、普段なら何でもない段差でつまずいたり、足がもつれて捻挫や骨折をしたりする事故につながりかねません。自分だけでなく、周囲のランナーを巻き込む危険性もあります。
血圧変動への影響と心臓への負担について
飲酒直後は一時的に血圧が下がることがありますが、運動を始めると心拍数が急上昇し、心臓に大きな負担がかかります。また、アルコールが抜けていく過程では血圧が上昇しやすくなります。
ランニングという強度の高い運動とアルコール摂取を組み合わせることは、心臓血管系にとって二重のストレスとなり、不整脈などのトラブルを誘発する恐れがあります。健康のために走っているのに、これでは本末転倒です。
レース後の飲酒も要注意!リカバリーを優先しよう
「ゴール後のビール(ワイン)が最高!」というランナーは多いですが、レース直後の体は極度の疲労と脱水状態にあります。ここでいきなりアルコールを摂取すると、肝臓は筋肉の修復よりもアルコールの分解を優先してしまいます。
その結果、疲労回復が遅れたり、脱水症状が悪化したりすることがあります。乾杯の前に、まずは水やスポーツドリンクで失われた水分をしっかりと補い、炭水化物やタンパク質で栄養補給を行うことが大切です。
飲むなら水も同量以上に飲むのがマナーとルール
もしメドックマラソンのような「飲んで走る」大会に参加する場合や、ランニングイベントの打ち上げでお酒を飲む場合は、「お酒と同量、もしくはそれ以上の水(チェイサー)を飲む」ことを徹底してください。
マラソン愛好家におすすめのワインの選び方と楽しみ方

リスクを理解した上で、ランニングライフに彩りを添えるワインの楽しみ方をご紹介します。日常のトレーニングや大会遠征の中に、上手にワインを取り入れてみましょう。
練習後のご褒美に最適なオーガニックワイン
健康意識の高いランナーには、酸化防止剤の添加が少ない、または無添加の「自然派ワイン(ヴァン・ナチュール)」や「オーガニックワイン」がおすすめです。
化学物質の摂取を極力減らすことができ、翌日に疲れが残りにくいと感じる人も多いようです。ブドウ本来のピュアな味わいは、走った後の研ぎ澄まされた味覚に優しく染み渡ります。ラベルに「Organic」や「Bio」の認証マークがあるものを探してみましょう。
低アルコールワインなら翌日への響きも少ない
「明日は朝からロング走をしたいけれど、少しワインも飲みたい」。そんな時は、アルコール度数が低めのワインを選ぶのが賢明です。
通常のワインはアルコール度数が13〜14%程度ですが、最近では9〜10%程度の軽やかなワインや、ドイツのリースリング、イタリアのランブルスコ(微発泡赤ワイン)など、比較的アルコールが低めで飲みやすい銘柄も豊富です。酔いすぎを防ぎつつ、食事とのマリアージュを楽しめます。
仲間との打ち上げで盛り上がるマグナムボトル
マラソン大会の打ち上げや、ランニングクラブのパーティーなど、大人数が集まる場面では、通常ボトルの2倍の容量がある「マグナムボトル(1500ml)」を用意してみてはいかがでしょうか。
見た目のインパクトで場が盛り上がるだけでなく、マグナムボトルは熟成がゆっくり進むため、ワインの味が安定して美味しいとも言われています。仲間と苦しい練習を乗り越えた後の乾杯は、最高の思い出になるはずです。
海外マラソン遠征で現地のワインを買う楽しみ
マラソンのために地方や海外へ遠征する際、その土地のワインをお土産にするのは素晴らしい楽しみ方です。日本国内でも、山梨、長野、山形、北海道など、マラソン大会が多く開催される地域は、同時に素晴らしいワインの産地でもあります。
大会の前日にワイナリーを訪問して試飲(控えめに!)や見学をしたり、ゴール後に自分へのご褒美として特別な一本を購入したりすることで、旅の記憶がより深く刻まれます。
まとめ
マラソンとワインは、楽しみ方次第で最高のパートナーになります。メドックマラソンのような非日常を楽しむイベントから、日々の健康管理としての赤ワイン摂取まで、その関わり方は多様です。
重要なのは、バランスと節度です。ランニングによる健康効果と、ワインがもたらすリラックス効果や抗酸化作用をうまく組み合わせることで、心身ともに充実したライフスタイルを送ることができるでしょう。
もちろん、走る前や最中の飲酒には脱水や転倒といったリスクが伴います。水分補給を徹底し、自分の体調と相談しながら楽しむことが、長く走り続け、長く飲み続けるための秘訣です。
次の大会のエントリーを考える際は、近くに美味しいワイナリーがあるか、参加賞にワインがあるかといった視点で探してみるのも面白いかもしれません。ぜひ、あなたらしい「ランニング×ワイン」の楽しみ方を見つけてください。





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