閾値走とは?マラソンのタイムを伸ばす効果的なトレーニング方法を徹底解説

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「最近、マラソンのタイムが伸び悩んでいる」「自己ベストを更新したいけれど、どんな練習をすれば良いかわからない」そんな悩みを持つランナーは少なくありません。日々のジョギングに加えて、もう一段階レベルアップするためのトレーニングを探している方も多いのではないでしょうか。そんなあなたにぜひ試していただきたいのが「閾値走(いきちそう・しきいちそう)」です。

閾値走は、多くのエリートランナーも取り入れている非常に効果の高いトレーニング方法です。 少しきついと感じるペースを維持して走ることで、持久力やスピード持続力を効率的に高めることができます。 この記事では、閾値走とは何かという基本的な知識から、その効果、具体的なペース設定の方法、トレーニングメニュー、そして実践する上での注意点まで、初心者にも分かりやすく徹底的に解説します。この記事を読めば、あなたも閾値走を正しく理解し、日々のトレーニングに取り入れて、目標達成に大きく近づけるはずです。

閾値走とは?基本をわかりやすく解説

マラソンのタイムを向上させるためには、ただ長く走るだけでなく、質の高いトレーニングを取り入れることが重要です。その代表的なものが「閾値走」です。ここでは、閾値走がどのようなトレーニングなのか、その基本的な考え方と、なぜタイム向上に効果的なのかを紐解いていきます。

閾値走(LT走)の基本的な考え方

閾値走とは、別名「LT走」とも呼ばれるトレーニング方法です。 LTとは「Lactate Threshold(乳酸性作業閾値)」の略で、運動中に血中の乳酸濃度が急激に上昇し始めるポイント(強度)を指します。 閾値走は、この乳酸が急増し始める直前の「ややきついけれど、なんとか維持できるペース」で走り続けるトレーニングです。

具体的には、全力で走った場合に20分から30分程度維持できるペースが目安とされています。 このペースは、快適なジョギングよりは速く、全力疾走よりは遅い、絶妙な強度設定がポイントになります。この刺激を体に与え続けることで、長距離をより速いペースで走るための能力が向上していくのです。

なぜ閾値走が重要なのか?乳酸との関係

ランニング中、体はエネルギーを生み出す過程で「乳酸」という物質を生成します。 かつては疲労物質とされていましたが、現在ではエネルギー源として再利用される重要な物質であることが分かっています。 ゆっくりしたペースで走っている間は、乳酸の生成と除去のバランスが取れているため、問題なく走り続けられます。しかし、ペースを上げて運動強度が上がると、乳酸の生成量が除去量を上回り始め、血中に乳酸が蓄積していきます。

この乳酸の蓄積が急激に始まるポイントが「LT(乳酸性作業閾値)」です。LTを超えたペースで走り続けると、筋肉の働きが阻害され、急激に疲労を感じてペースを維持することが困難になります。 閾値走は、このLTぎりぎりのペースでトレーニングを行うことで、体が乳酸を効率的に処理する能力(乳酸除去能力)を高め、LT自体を引き上げることを目的としています。 つまり、乳酸が溜まりにくくなることで、より速いペースで、より長く走り続けられるようになるのです。

閾値走で期待できる具体的な効果

閾値走を継続的に行うことで、ランナーは多くのメリットを得ることができます。

第一に、乳酸性作業閾値(LT)が向上します。 これにより、以前はきついと感じていたペースでも、乳酸の蓄積を抑えながら楽に走れるようになります。 結果として、レース後半での粘りが生まれ、失速を防ぐことにつながります。

第二に、スピード持久力が向上します。 ある程度速いペースを長時間維持する能力が養われるため、5kmや10kmはもちろん、ハーフマラソンやフルマラソンでの目標タイム達成に直結します。

第三に、レースペースに対する余裕が生まれます。 閾値走は、通常のマラソンペースよりも速いペースで行うため、本番のレースペースが心理的にも身体的にも楽に感じられるようになります。 また、レース中の細かなペースのアップダウンにも対応しやすくなるというメリットもあります。

さらに、最大酸素摂取量(VO2max)の向上も期待できるとされています。 これは、体内に酸素を取り込み、利用する能力の最大値を示す指標で、持久力の重要な要素です。

あなたに合った閾値走のペース設定方法

閾値走で高い効果を得るためには、自分にとって適切なペースを設定することが最も重要です。 ペースが速すぎると負荷が高すぎてトレーニングを継続できず、逆に遅すぎると十分な効果が得られません。 ここでは、現在の自分の走力に合った閾値ペースを見つけるための、代表的な4つの方法を紹介します。

心拍数からペースを設定する方法

心拍計付きのランニングウォッチを持っている場合に有効な方法です。閾値ペースは、一般的に「最大心拍数の85%〜90%」の範囲に相当すると言われています。

まず、自身の最大心拍数を把握する必要があります。最も簡単な計算方法は「220 − 年齢」です。 例えば、40歳のランナーであれば、最大心拍数は「220 – 40 = 180拍/分」と推定できます。その85%〜90%は「153〜162拍/分」となります。この心拍数の範囲を維持できるようにペースを調整しながら走ることで、適切な強度の閾値走を行うことができます。

ただし、「220 − 年齢」はあくまで簡易的な計算式であり、個人差が大きい点には注意が必要です。より正確な最大心拍数を知るためには、専門機関で測定するか、トレーニングの中で全力で追い込んだ際に記録された最も高い心拍数を参考にすると良いでしょう。

レースのタイムからペースを算出する方法

過去のレースタイム、特に5km、10km、ハーフマラソンのタイムは、閾値ペースを算出するための非常に良い指標となります。一般的に、閾値ペースは「10kmレースのペースより少し遅いペース」や「ハーフマラソンのレースペースとほぼ同等」と言われています。

例えば、10kmを50分(キロ5分00秒ペース)で走る力があるランナーの場合、閾値ペースはキロ5分05秒〜5分15秒あたりが目安となります。ハーフマラソンを1時間50分(キロ5分12秒ペース)で走れるランナーであれば、そのペースが閾値ペースの目安です。

この方法は、特別な機材がなくても計算できる手軽さが魅力です。ただし、参照するレースタイムが古すぎると現在の走力と合っていない可能性があるため、できるだけ最近の、全力で走ったレースのタイムを使用することが重要です。

VDOT(最大酸素摂取量)を使ったペース設定

著名なランニングコーチであるジャック・ダニエルズ氏が提唱する「VDOT」という指標を使ってペースを設定する方法も非常に有効です。VDOTは、レースタイムから算出される、あなたの現在のランニング能力を示す数値です。

インターネット上には、レース名(5km、10kmなど)とタイムを入力するだけでVDOTを自動で計算してくれるサイトが多数存在します。VDOTが算出されると、ダニエルズ氏の理論に基づいたトレーニングペース(Eペース、Mペース、Tペースなど)が一覧で表示されます。この中の「Tペース(Threshold Pace)」が、閾値走で用いるべきペースです。

例えば、フルマラソンのタイムが3時間30分のランナーのVDOTを計算すると、それに対応するTペース(閾値ペース)が自動的に示されます。 この方法は、科学的な根拠に基づいており、多くのランナーに支持されています。定期的にレースに出場し、その都度VDOTを更新していくことで、常に自分のレベルに合ったトレーニングが可能になります。

主観的なきつさ(RPE)で判断する方法

RPE(Rate of Perceived Exertion)とは、自分自身が感じる運動のきつさを数値化した「主観的運動強度」のことです。閾値走の体感的なきつさは、「楽ではないが、何とか会話ができる」あるいは「断片的なら会話が可能」なレベルと表現されます。

具体的には、「快適にきつい」と感じられるペースです。息は弾みますが、息切れするほどではなく、20分程度ならそのペースを維持できるだろう、と感じる強度です。この方法は、ランニングウォッチなどの機器がない場合や、その日の体調に合わせて強度を微調整したい場合に役立ちます。

最初はペースが安定しないかもしれませんが、経験を積むことで、自分の体の感覚と対話しながら適切なペースを見つけられるようになります。他の方法で算出したペースと、この主観的なきつさを照らし合わせることで、より精度の高いペース設定が可能になります。

閾値走の具体的なやり方とトレーニングメニュー例

適切なペースが分かったら、いよいよ実践です。閾値走は負荷の高いトレーニングなので、正しい手順で行うことが怪我の予防と効果の最大化につながります。 ここでは、ウォームアップからクールダウンまでの流れと、レベル別の具体的なトレーニングメニューを紹介します。

ウォームアップとクールダウンの重要性

閾値走のように強度の高いトレーニングを行う前には、必ずウォームアップを行いましょう。筋肉や関節を温め、心拍数を徐々に上げることで、体を走る準備状態に整え、怪我のリスクを低減します。ウォームアップとしては、10分〜15分程度の軽いジョギングを行い、その後、動的ストレッチ(腕振りや脚の振り上げなど)を取り入れるのが効果的です。

同様に、トレーニング後のクールダウンも非常に重要です。 走り終えたらすぐに止まるのではなく、10分程度のゆっくりとしたジョギングやウォーキングで、徐々に心拍数を落ち着かせていきます。これにより、疲労物質の排出が促され、翌日以降の疲労回復を助けます。クールダウンの最後には、静的ストレッチ(伸ばした状態で数十秒キープするストレッチ)で、特に使った脚の筋肉をゆっくりと伸ばしておきましょう。

【初心者向け】閾値走の基本メニュー

閾値走に初めて挑戦する場合や、まだ慣れていないランナーにおすすめなのが「クルーズインターバル」です。 これは、閾値ペースで走る時間を分割し、間に短い休憩(リカバリー)を挟む方法です。 20分間連続で走るよりも精神的な負担が少なく、質の高いフォームを維持しやすいというメリットがあります。

メニュー例:
・(ウォームアップ)
・ 閾値ペースで5分走る + リカバリージョグ1分
・ これを3〜4セット繰り返す
・ (クールダウン)

まずは合計の疾走時間が15分〜20分になるように設定し、慣れてきたら1回の疾走時間を延ばしたり(例:8分×3セット)、セット数を増やしたりしていきましょう。リカバリーは完全に立ち止まらず、ゆっくりとしたジョグでつなぐのがポイントです。

【中級者向け】継続的な閾値走メニュー

閾値走に慣れてきた中級者ランナーは、連続して走る「テンポ走」に挑戦してみましょう。 これは、設定した閾値ペースを20分間維持し続ける、最もオーソドックスな閾値走です。

メニュー例:
・ (ウォームアップ)
・ 閾値ペースで20分間走る
・ (クールダウン)

このトレーニングは、一定のペースを維持する能力(ペース感覚)と、精神的な持久力を養うのに非常に効果的です。 ポイントは、前半に突っ込みすぎず、後半にペースが落ちないように、イーブンペースを心がけることです。 レース本番に近い状況を作り出すことで、実践的な走力を高めることができます。体力がついてきたら、徐々に時間を延ばして25分、30分と挑戦していくことも可能です。

閾値走を行う頻度の目安

閾値走は効果が高い一方で、体への負担も大きいトレーニングです。そのため、毎日のように行うのは避けましょう。 やりすぎはオーバートレーニングにつながり、かえってパフォーマンスの低下や怪我を招く原因となります。

一般的な目安として、閾値走を行う頻度は週に1回、多くても2回までとされています。 他の練習(ジョギング、ロング走、インターバル走など)とバランス良く組み合わせることが重要です。 特に、閾値走を行った翌日は、疲労を抜くために軽いジョギングにするか、休養日に充てるなど、計画的にトレーニングを組み立てましょう。自分の体と相談しながら、無理のない範囲で継続することが、長期的な成長の秘訣です。

閾値走を行う上での注意点とよくある質問

効果絶大な閾値走ですが、正しく行わないと思うような結果が得られなかったり、怪我につながったりすることもあります。ここでは、閾値走を安全かつ効果的に続けるための注意点や、ランナーが抱きがちな疑問についてお答えします。

閾値走で陥りがちな失敗とその対策

最もよくある失敗は、ペース設定の誤りです。特に、その日の体調を無視して設定ペースに固執しすぎたり、気持ちが高ぶって前半から速すぎるペースで入ってしまったりするケースです。速すぎるペースはLTを大幅に超えてしまい、乳酸が急激に蓄積するため、後半に失速して本来のトレーニング目的を果たせません。

対策としては、まず自分の現在の走力に基づいた、現実的なペースを設定することが大切です。そして、トレーニング当日は「設定ペースはあくまで目安」と捉え、体感(主観的なきつさ)を重視しましょう。 もし「今日はやけにきついな」と感じたら、無理せずペースを少し落とす勇気も必要です。逆に、余裕があると感じても、ペースを上げるのは最後の数分に留め、基本的には設定ペースを維持することに集中しましょう。

オーバートレーニングを防ぐポイント

閾値走は負荷の高い「ポイント練習」に分類されます。これをやりすぎてしまうと、体が回復する前に次の負荷がかかり、疲労がどんどん蓄積するオーバートレーニング状態に陥ってしまいます。症状としては、パフォーマンスの低下、安静時心拍数の上昇、倦怠感、睡眠障害などが挙げられます。

これを防ぐためには、トレーニングの頻度管理が不可欠です。前述の通り、閾値走は週に1〜2回に留め、練習と休養のバランスをしっかり取ることが重要です。 ポイント練習を行った翌日は、積極的休養(アクティブレスト)として軽いジョギングを取り入れるか、完全休養日にしましょう。また、十分な睡眠と栄養バランスの取れた食事も、体の回復を助け、オーバートレーニングを防ぐ上で欠かせない要素です。常に自分の体の声に耳を傾け、疲労のサインを見逃さないようにしましょう。

他のトレーニング(インターバル走など)との違い

ランニングのポイント練習には、閾値走の他に「インターバル走」などがあります。これらは混同されがちですが、目的と強度が異なります。

閾値走は、LT(乳酸性作業閾値)を高めることを主な目的とし、「ややきつい」と感じるペースを20分以上持続します。 これにより、スピード持久力、つまりある程度の速さを長く維持する能力が向上します。

一方、インターバル走は、VO2max(最大酸素摂取量)の向上を主な目的とします。閾値走よりもさらに速いペース(話すのが困難なレベル)で短い距離を走り、ジョグなどで不完全に休息を挟みながら繰り返すトレーニングです。これにより、より速いスピードを生み出す能力や、心肺機能の最大能力が向上します。

どちらが良いというわけではなく、両者は車の両輪のような関係です。閾値走で持久的なスピードの底上げをし、インターバル走でトップスピードを磨くなど、目的に応じてバランス良く取り入れることが、総合的な走力アップにつながります。

閾値走はきつい?続けるコツは?

正直に言うと、閾値走は楽なトレーニングではありません。「終わるのが待ち遠しい」と感じることもある、精神的にも肉体的にもタフな練習です。 しかし、そのきつさこそが成長の源泉です。

続けるコツとしては、まず完璧を求めすぎないことです。毎回設定タイムをクリアできなくても、落ち込む必要はありません。まずはメニューをやり遂げた自分を褒めてあげましょう。また、一人で続けるのが難しい場合は、ランニング仲間と一緒に行ったり、練習記録をSNSなどで共有したりして、モチベーションを維持するのも良い方法です。そして何より、トレーニング後の達成感や、レースでのタイム更新といった成功体験が、次への大きな原動力になります。きつい練習の先にある成長を楽しみに、継続していきましょう。

まとめ 閾値走をマスターして自己ベストを更新しよう

この記事では、マラソンのタイム向上に非常に効果的なトレーニングである「閾値走」について、多角的に解説してきました。

閾値走とは、乳酸が急激に溜まり始める直前の「ややきつい」ペースを維持して走るトレーニングです。 これにより、乳酸を処理する能力が高まり、より速いペースで長く走れるようになる「スピード持久力」が向上します。

適切なペース設定が成功の鍵であり、心拍数や過去のレースタイム、VDOTといった客観的な指標や、「断片的に会話ができる」といった主観的な感覚を基に、自分に合ったペースを見つけることが重要です。

実際のトレーニングでは、初心者向けのクルーズインターバルから始め、慣れてきたら20分間のテンポ走に挑戦するなど、段階的に進めるのがおすすめです。 いずれの場合も、ウォームアップとクールダウンは入念に行い、怪我の予防に努めましょう。

閾値走は負荷の高い練習のため、週1〜2回の頻度を守り、オーバートレーニングに注意が必要です。 きついトレーニングではありますが、その分だけ得られる効果は絶大です。この記事を参考に、ぜひあなたのトレーニングメニューに閾値走を取り入れ、伸び悩みの壁を打ち破り、自己ベスト更新を目指してください。

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