フルマラソンなどの長い距離を走るとき、水分補給と同じくらい大切なのが「塩分補給」です。一生懸命走っていると、汗と一緒に体内の塩分(ナトリウム)がどんどん失われていきます。このとき水分だけを摂りすぎると、かえって体調を崩すリスクがあることをご存じでしょうか。マラソンで最後まで元気に走り切るためには、計画的な塩分対策が欠かせません。
この記事では、マラソンにおける塩分補給の重要性や、具体的な摂取タイミング、おすすめのアイテムについて、初心者の方にもわかりやすく解説します。自分に合った補給方法を身につけて、レース中のトラブルを未然に防ぎましょう。正しい知識があれば、後半の失速や足つりを防ぎ、目標達成に一歩近づくことができます。
マラソンで塩分補給が必要な理由と不足のリスク

マラソンを完走するためには、なぜ塩分を積極的に摂る必要があるのでしょうか。ここでは、体内で起こる変化と、塩分が不足したときに現れる危険なサインについて詳しく見ていきましょう。まずは基本となる仕組みを理解することが、適切な対策の第一歩となります。
脱水症状と低ナトリウム血症の違い
マラソン中に起こりやすいトラブルには、大きく分けて「脱水症状」と「低ナトリウム血症」の2つがあります。脱水症状は体内の水分が不足することで起こりますが、低ナトリウム血症は血液中の塩分濃度が極端に低くなる状態を指します。汗をかいたあとに水だけを大量に飲むと、血液が薄まってしまい、この低ナトリウム血症を引き起こすことがあります。
低ナトリウム血症になると、脳や筋肉が正常に働かなくなり、頭痛や吐き気、ひどい場合には意識を失うこともあるため注意が必要です。ランナーが「水分さえ摂っていれば安心」と考えるのは非常に危険です。水分と塩分は、必ずセットで補給するという意識を持つようにしてください。
また、この状態は「水中毒」とも呼ばれ、特に完走までに時間がかかる完走目的のランナーほどリスクが高まると言われています。自分のペースに合わせて、適切な濃度でミネラルを補う工夫が求められます。
足つりや痙攣などの初期症状
「レース後半に急に足がつって動けなくなった」という経験を持つランナーは多いものです。この足つりの大きな原因の一つが、ミネラルバランスの崩れです。体内のナトリウムやマグネシウム、カリウムといった電解質が汗で流れ出ると、筋肉の伸縮をコントロールする信号がうまく伝わらなくなり、異常な収縮を起こしてしまいます。
足がつりそうになる感覚や、筋肉のピクつきは、体が塩分不足を訴えている初期サインです。これらの症状が出てから対処するのでは遅い場合が多いため、違和感を覚える前に先回りして補給することが重要です。特にふくらはぎや太ももに不安がある方は、日頃の練習から塩分の摂り方を意識してみましょう。
もし走行中に筋肉の異変を感じたら、すぐに立ち止まらずに、まずは手持ちの塩分タブレットなどを口にしてください。急激な筋肉の硬直を防ぐことで、深刻なトラブルを回避できる可能性が高まります。
パフォーマンス低下を防ぐメカニズム
適切な塩分濃度が保たれていると、体内の水分保持能力が向上します。ナトリウムは細胞の外側の水分量を調節する役割を担っているため、血中の塩分が十分であれば、摂取した水分が効率よく全身に行き渡ります。これにより、血液の循環がスムーズになり、筋肉への酸素供給や老廃物の排出が促されます。
逆に塩分が不足すると、どれだけ水を飲んでも体外へ排出されやすくなってしまい、パフォーマンスが著しく低下します。体温調節機能も弱まるため、熱中症のリスクも高まります。持久力を維持し、最後まで粘り強い走りを支えるためには、塩分によるコンディショニングが不可欠なのです。
心拍数の急激な上昇や、普段より体が重く感じる場合も、ミネラル不足が関係しているかもしれません。エネルギー補給と同じくらい、電解質の管理が記録更新の鍵を握っていると言っても過言ではありません。
効果的な塩分補給のタイミングとスケジュール

塩分は一度にたくさん摂れば良いというわけではありません。体へ負担をかけず、効率よく吸収させるためには、タイミングが非常に重要です。レース当日の流れに沿った理想的な補給スケジュールを確認しておきましょう。
レース前から始める準備
マラソンの準備は、スタートラインに立つ前から始まっています。当日の朝や前日までに、体内のミネラル分を満たしておく「ウォーターローディング」の一環として、経口補水液や少し濃いめのスポーツドリンクを飲んでおくのがおすすめです。これにより、スタート直後の急な発汗にも対応しやすくなります。
ただし、前日に塩辛いものを食べ過ぎるのは控えましょう。過剰な塩分は喉の渇きを誘発し、睡眠の質を下げたり、むくみの原因になったりします。あくまでもバランスの良い食事を心がけ、飲み物で適度に補う程度にとどめるのがスマートな準備方法です。
また、スタート直前に塩分タブレットを1粒口にしておくのも効果的です。緊張による発汗や、待機時間中の乾燥で失われる水分をケアすることで、万全の状態で走り出すことができます。
走行中(5km〜10kmごと)の継続摂取
レース中は、喉が渇く前に定期的に補給するのが鉄則です。多くのマラソン大会では、5kmごとに給水所が設置されています。すべての給水所で「水」だけでなく「スポーツドリンク」を選ぶようにしましょう。水しかない場所では、自分で用意した塩飴やタブレットを併用してください。
補給の目安としては、1時間ごとに塩分タブレット1〜2粒程度、または20km以降は意識的に回数を増やすのが理想です。「少しずつ、こまめに」摂ることで、胃腸への負担を抑えながら血中のナトリウム濃度を安定させることができます。後半になるほど内臓も疲弊してくるため、飲み込むのがつらい場合は、少しずつ溶かして摂るように工夫しましょう。
また、気温が高い日や湿度が高い日は、想像以上に汗で塩分が失われています。天候に合わせて、通常のスケジュールよりも早め早めの対策を心がけることが、完走への近道となります。
ゴール後の回復を助ける補給
ゴールした瞬間に安心して補給を忘れてしまう方が多いですが、走り終わったあとも体内のダメージは続いています。失われた塩分と水分を速やかに補うことで、翌日以降の疲労感や筋肉痛を軽減できます。完走後は、冷たすぎない経口補水液や、ミネラル分を豊富に含むスープなどを摂取しましょう。
激しい運動のあとは内臓も弱っているため、一気に飲み干すのではなく、一口ずつゆっくりと補給することを意識してください。また、尿の色をチェックするのも良い方法です。色が濃すぎる場合は脱水気味ですので、透明に近い黄色になるまで、水分と塩分を継続的に摂り続けてください。
ゴール後の適切なケアが、次のトレーニングへの復帰を早めます。疲れた体をいたわるために、リカバリー用のアイテムを荷物に忍ばせておくことをおすすめします。
種類別!おすすめの塩分補給アイテムと活用法

最近では、ランナー向けの便利な補給アイテムがたくさん販売されています。それぞれの特徴を理解して、自分の走り方や好みに合ったものを選べるようになりましょう。代表的なアイテムを比較表にまとめました。
| アイテムの種類 | メリット | 主な活用シーン |
|---|---|---|
| 塩タブレット・飴 | 軽くて持ち運びやすく、どこでも食べられる | 走行中の定期的な補給 |
| スポーツドリンク | 水分、糖分、塩分を同時に摂取できる | 給水所での基本的な水分補給 |
| 経口補水液 | 吸収速度が非常に速く、脱水時に効果的 | レース前後の調整、緊急時 |
| 塩ジェル・サプリ | 高濃度の塩分を素早く摂取できる | 後半の足つり対策、上級者向け |
手軽な「塩タブレット・塩飴」
初心者からベテランまで最も愛用されているのが、タブレットや飴のタイプです。ポーチやポケットに入れてもかさばらず、走りながら片手でさっと取り出せるのが最大の魅力です。最近のタブレットはラムネのように口溶けが良いものが多く、喉に詰まる心配も少ないため、激しい呼吸をしている最中でも安心して摂取できます。
塩飴の場合は、ゆっくりと溶けるため長時間にわたって塩分を補給し続けられるという利点があります。ただし、夏場のレースでは個包装が溶けてベタつくこともあるため、事前にパッケージを開けやすいように準備しておくか、専用のピルケースに移し替えておくとスムーズです。
味のバリエーションも豊富なので、飽きないように複数の種類を用意するのも楽しい工夫です。自分のお気に入りを見つけておけば、苦しい時間帯のささやかな楽しみにもなります。
吸収が早い「経口補水液・スポーツドリンク」
飲料タイプは、水分と一緒に素早く体に浸透するのが特徴です。一般的なスポーツドリンクは、糖分も含まれているためエネルギー補給にも役立ちますが、塩分濃度はそれほど高くありません。そのため、大量に汗をかく場面ではスポーツドリンクだけでは不足することもあります。
より深刻な脱水が予想される場合や、レース直後のリカバリーには「経口補水液」が非常に有効です。経口補水液は、病院の点滴に近い組成で作られており、水分と塩分が最も吸収されやすいバランスになっています。味が少ししょっぱく感じるかもしれませんが、体が求めているときは美味しく感じることが多いのも特徴の一つです。
日常のトレーニングではスポーツドリンク、本番や猛暑日には経口補水液というように、状況に応じて使い分けるのがベストな活用法と言えるでしょう。
持ち運びに便利な「塩ジェル・サプリ」
「絶対に足をつりたくない」というシリアスなランナーにおすすめなのが、高濃度の塩分を配合したジェルやカプセル状のサプリメントです。これらは1回分でタブレット数個分に相当するナトリウムを摂取できるため、荷物を最小限に抑えたい場合に役立ちます。
塩ジェルは粘り気があるため、飲み込む際に少し水分が必要になりますが、体内に素早く行き渡る感覚があります。また、ソルトカプセルは水で流し込むだけで完了するため、味が苦手な方でも手軽に摂取可能です。これらは特に30km以降の「ここ一番」の踏ん張り時に投入すると、驚くほど体が楽になることがあります。
ただし、濃度が高いため、空腹時に摂取すると胃を痛める可能性もあります。必ず練習で一度試してみて、自分の胃腸との相性を確認してから本番で使うようにしてください。
自分に合った塩分摂取量の目安と計算の考え方

必要な塩分の量は、体質や体重、当日のコンディションによって大きく異なります。誰にでも当てはまる正解はありませんが、目安を知っておくことで自分なりの戦略を立てやすくなります。計算のヒントを参考にしてみましょう。
発汗量から逆算する基本的な計算
一般的に、汗1リットルの中には約2グラムから3グラムの塩分が含まれていると言われています。もし2時間の練習で体重が1キロ減ったとしたら、それは約1リットルの汗をかいたことになり、同時に2グラム以上の塩分が失われた計算になります。
【発汗量の簡易チェック方法】
1. 練習前の体重を測る
2. 1時間走り、その間に飲んだ水分量を記録する
3. 練習後の体重を測る
(練習前体重 – 練習後体重) + 飲んだ水分量 = 1時間の総発汗量
この発汗量に0.3%(0.003)を掛けると、おおよその塩分損失量が算出できます。すべてをサプリメントで補う必要はありませんが、この数字の半分程度を意識的に補給することで、体調の急変を防ぎやすくなります。自分の汗の量を把握することは、マラソン対策の基本です。
天候やコース条件による調整
同じ距離を走る場合でも、気温が5度変われば発汗量は劇的に変化します。また、風が強い日や湿度が低い日は、汗がすぐに乾いてしまうため、自覚がないままに脱水が進んでいることがよくあります。「今日は汗をあまりかいていない」と感じるときほど、実は危険な場合があるのです。
日差しが強い晴天時はもちろんですが、雨の日も注意が必要です。カッパなどの防寒着を着て走ると、衣服内の温度が上昇し、予想以上に汗をかいていることがあります。どのような天候であっても、基本的な補給ペースを崩さないことが失敗しないためのコツです。
コースにアップダウンが多い場合も、筋肉への負荷が高まるためミネラルの消費が早まります。難コースに挑む際は、平坦なコースよりも1.2倍から1.5倍ほど多めに塩分アイテムを準備しておくと安心です。
自分の「塩分ロス」を知るセルフチェック
自分が「塩分を失いやすい体質かどうか」をチェックする簡単な方法があります。走ったあとに乾いたウェアを見て、白い粉のようなものが付着していませんか。これは汗に含まれる塩分が結晶化したものです。また、汗が目に入るとひどくしみる、あるいは汗がしょっぱいと感じる方も、塩分損失が多いタイプと言えます。
日頃からトレーニングを積んでいると、体は必要なミネラルを逃さないように進化し、汗の塩分濃度が薄くなっていくと言われています。逆に、練習不足の状態でいきなりレースに出ると、塩分がどんどん排出されてしまうため、より入念な対策が必要になります。自分の体の個性を知り、適切な対策を立てましょう。
塩分とあわせて摂りたい栄養素と注意点

塩分(ナトリウム)だけを単独で摂るよりも、他の栄養素と組み合わせることで、より高い効果が期待できます。相性の良い成分を知り、さらにスマートな補給を目指しましょう。ただし、注意すべきポイントもいくつか存在します。
カリウム・マグネシウムとの相乗効果
塩分対策と並んで意識したいのが、カリウムとマグネシウムです。カリウムは筋肉の収縮をスムーズにし、マグネシウムは筋肉の硬直(つり)を防ぐ役割があります。これらは「電解質(エレクトロライト)」としてチームで働いているため、どれか一つが欠けても効果が半減してしまいます。
最近の塩分タブレットには、これら複数のミネラルがバランスよく配合されているものが多いです。購入する際は、パッケージの裏面を見て「カリウム」や「マグネシウム」の表記があるかを確認してみてください。複数の成分を一度に摂れるアイテムを選ぶことで、トラブルをより多角的にガードできます。
また、バナナなどの天然の食材にもこれらの成分は豊富に含まれています。大会の給食所にバナナがある場合は、ミネラル補給の絶好のチャンスとして活用しましょう。
糖分が水分・塩分の吸収を早める理由
水分や塩分を速やかに腸で吸収させるためには、適度な「糖分(ブドウ糖)」の存在が不可欠です。人間の体には、糖分とナトリウムが一緒に存在することで、水分を強力に引き込む仕組みが備わっています。これが経口補水液やスポーツドリンクに砂糖が含まれている大きな理由です。
「ダイエット中だから」「甘いものは控えたい」と水だけを飲んでいても、吸収効率が悪いため、なかなか細胞まで水分が届きません。効率を重視するなら、塩分と少量の糖分をセットで摂取するのが正解です。エネルギー切れを防ぐための補給食(ジェルなど)と一緒に水分を摂るのも、吸収を助ける良い方法です。
糖分は脳のエネルギー源にもなるため、集中力が途切れがちな後半戦において、精神的な支えにもなってくれます。甘味と塩味をバランスよく組み合わせる戦略を立ててみましょう。
過剰摂取による胃腸への負担を避ける
「多めに摂れば安心」という考えで、過剰に塩分を摂取するのは禁物です。一度に大量の塩分が胃に入ると、その濃度を薄めようとして胃の中に水分が集まり、胃痛や不快感を引き起こすことがあります。また、過剰な塩分は喉の渇きを強め、結果として水の飲み過ぎ(水中毒)を招くという悪循環に陥るリスクもあります。
摂取の基本は、パッケージに記載された推奨量を守ることです。例えば「1時間に1粒」とあれば、それを忠実に守るのが最も安全で効果的です。
特にレース後半は、内臓への血流が減り、消化吸収能力が著しく低下しています。そのような状態で刺激の強いアイテムを投入すると、激しい腹痛でリタイアを余儀なくされることもあります。補給は常に「優しく、着実に」を心がけ、自分の内臓の声を聞きながら進めるようにしてください。
マラソン当日に失敗しないための塩分補給まとめ
マラソンにおける塩分補給は、単なる栄養補給ではなく、体を守るための防衛策です。汗とともに失われるナトリウムを適切に補うことは、低ナトリウム血症という深刻なリスクを避け、足つりやパフォーマンスの低下を食い止めることにつながります。喉の渇きを感じる前から、計画的にミネラルを摂取する習慣をつけましょう。
補給の方法には、タブレットや飴、経口補水液、高濃度のジェルなど、さまざまな選択肢があります。それぞれの特性を活かし、レース前の準備からゴール後のケアまで、時間軸に沿ったスケジュールを立てておくことが成功の鍵です。また、天候や自分の発汗体質に合わせて柔軟に量を調整する意識も忘れないでください。
最後に大切なのは、新しいアイテムを本番でいきなり使わないことです。日頃の練習で、どのタイミングで何を摂ると体がどう反応するかを確かめておきましょう。自分なりの「必勝補給パターン」が見つかれば、マラソン当日をより自信を持って迎えることができます。万全の準備で、最高の走りを楽しみましょう。



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