マラソンの練習を続けていると、ある時期からタイムが伸び悩み、「これ以上速くなれる気がしない」と壁を感じることはありませんか。
毎日走っているのに記録が更新できない、レースの後半でどうしても失速してしまう。そんなランナーの悩みを打破するきっかけとなるのが、今回解説する「インターバルトレーニング」です。
「きつそう」「上級者向け」というイメージが強いかもしれませんが、正しいやり方と自分に合った設定で行えば、サブ3やサブ4を目指す市民ランナーにとっても非常に効果的な練習方法となります。
この記事では、マラソンのタイム向上に直結するインターバルトレーニングの具体的なメニューや、怪我を防ぐためのポイントをわかりやすく解説します。
マラソンに効くインターバルトレーニングとは?知っておくべき効果とメリット

インターバルトレーニングとは、疾走(速いペースで走る)と休息(ジョギングなどでつなぐ)を交互に繰り返すトレーニング方法です。
マラソン練習の中でも「ポイント練習」と呼ばれる高強度のメニューに位置づけられ、短い時間で効率よく身体能力を向上させることができます。
なぜ多くのランナーがこの苦しい練習を取り入れるのか、その具体的な効果を見ていきましょう。
心肺機能(VO2Max)が飛躍的に向上する
インターバルトレーニングの最大の目的は、心肺機能の強化です。特に「最大酸素摂取量(VO2Max)」の向上が期待できます。
VO2Maxとは、体内に取り込める酸素の最大量のことです。これを車のエンジンに例えるなら「排気量」にあたります。
排気量が大きければ、アクセルを軽く踏むだけでスピードが出るように、VO2Maxが高まれば、同じペースで走っても以前より楽に感じられるようになります。
ゼーハーと息が上がるような強度で走ることで心臓と肺に強い刺激を与え、より多くの酸素を筋肉に送り届ける能力を養うのです。
この能力が向上することで、マラソン後半の失速を防ぎ、粘り強い走りが可能になります。
ランニングエコノミー(燃費)が改善される
速いスピードで走ることは、フォームの改善にもつながります。
ゆっくりとしたジョギングだけでは使われない筋肉や神経回路が刺激され、大きくダイナミックな動きが身につきます。
これにより、無駄なエネルギーを使わずに走る技術、すなわち「ランニングエコノミー」が改善されます。
ランニングエコノミーが良い状態とは、車で言えば「燃費が良い」状態です。
少ないエネルギーで長く速く走れるようになるため、42.195kmという長丁場を走り切る上で非常に有利になります。
スピードの「余裕度」が生まれる
インターバルトレーニングでは、マラソンのレースペースよりもはるかに速いスピードで走ります。
例えば、レースペースがキロ5分の方なら、キロ4分30秒やそれ以上の速さで走ることになります。
この「速い動き」を身体に覚えさせることで、本来のレースペースが「ゆっくり」に感じられるようになります。
これを「スピードの余裕度」と呼びます。
余裕を持ってレースに入ることができれば、心拍数の上昇も抑えられ、リラックスして距離を消化していくことができるでしょう。
きつい局面に打ち勝つメンタルが鍛えられる
生理学的な効果だけでなく、精神的なメリットも見逃せません。
インターバルトレーニングは、肉体的に非常にきつい練習です。「もう辞めたい」「あと一本が走れない」という葛藤と戦うことになります。
練習でこの苦しさを乗り越えておくことは、レース本番で最大の武器になります。
マラソンの30km以降、脚が重くなり呼吸が苦しくなったときに、「あのインターバル練習を乗り越えたのだから大丈夫だ」という自信が、最後の一歩を後押ししてくれるはずです。
目的別で使い分ける!基本の距離と本数設定

一口にインターバルトレーニングと言っても、走る距離や本数によってその効果は異なります。
マラソンのタイムを縮めるためには、自分の目的に合ったメニューを選ぶことが重要です。
ここでは、代表的なメニューとその特徴を紹介します。
【王道】スタミナとスピードを両立する「1000mインターバル」
マラソンランナーにとって最もポピュラーで、効果的なのが1000mのインターバルです。
これは「スピード持久力」を養うのに最適な距離とされています。
推奨メニュー例
・1000m × 5本(休息:200mジョグ または 90秒〜120秒)
1000mという距離は、単なるダッシュではなく、ある程度の時間を耐え抜く必要があります。
5本行うことでトータル5kmの疾走となり、マラソンに必要なスタミナの基礎を作りながら、心肺機能も極限まで追い込むことができます。
初めて行う場合は3本からスタートし、慣れてきたら5本を目指しましょう。
上級者になると7本〜10本行うこともありますが、基本は5本で十分な効果が得られます。
【スピード強化】動きのキレを作る「400mショートインターバル」
よりスピードを強化したい、あるいはフォームを大きくしたい場合には、短い距離のインターバルが有効です。
400mトラックを使用するのが一般的ですが、ロードの直線でも可能です。
推奨メニュー例
・400m × 10本〜12本(休息:200mジョグ または 60秒〜90秒)
距離が短い分、1000mインターバルよりも速いペース設定で行います。
心拍数が急激に上がるため、最大酸素摂取量への刺激が強く入ります。
また、本数を多くこなすことで、疲労した状態でもフォームを維持する集中力が養われます。
夏場の暑い時期など、長い距離を走るのが困難な季節にもおすすめのメニューです。
【持久力重視】本番を想定した「2000m〜3000mロングインターバル」
レースが近づいてきた時期や、スピードよりもスタミナに不安がある場合は、距離を伸ばしたロングインターバル(クルーズインターバルとも呼ばれます)を行います。
推奨メニュー例
・2000m × 3本(休息:400mジョグ)
・3000m × 2本(休息:600mジョグ)
疾走区間が長くなるため、ペースは1000mインターバルよりも少し落とします。
閾値(いきち)と呼ばれる、「これ以上速く走ると乳酸が急激に溜まる」ギリギリのペースで長く走るトレーニングです。
マラソンレースペースに近い感覚で、かつそれよりも少し速い負荷をかけ続けることができるため、実践的なスタミナ養成に最適です。
休息(レスト)のとり方が効果を左右する
インターバルトレーニングにおいて、疾走区間と同じくらい重要なのが「休息(レスト)」の時間です。
この休息の間に、完全に立ち止まって休んでしまうのはおすすめしません。
ゆっくりとしたジョギング(ロギング)で身体を動かし続ける「不完全休息」にすることで、筋肉に溜まった乳酸の除去を促し、心拍数が下がりすぎるのを防ぎます。
休息時間は、疾走時間の半分〜同程度が目安です。
例えば1000mを4分で走るなら、レストは2分(またはゆっくり200mジョグ)程度に設定すると良いでしょう。
レストを短くすればするほど持久力強化の要素が強まり、長くすれば一本一本のスピードを追求する練習になります。
ペース設定が重要!自分に合った強度を見つける方法

インターバルトレーニングで最も難しいのが「ペース設定」です。
速すぎれば最後まで持ちませんし、遅すぎれば効果が薄れてしまいます。
ここでは、自分に最適なペースを導き出す方法を解説します。
VDOT表を活用して客観的な数値を知る
最も確実な方法は、「VDOT(ブイドット)」という指標を使うことです。
これは、ジャック・ダニエルズ博士が提唱した理論で、現在の自分の走力(最近のレースタイム)から、トレーニングごとの適切なペースを算出してくれるものです。
例えば、フルマラソン「サブ4(4時間切り)」を目指すランナーの場合、VDOTは約38となります。
この場合のインターバル(Iペース)の目安は、1kmあたり約4分50秒〜5分00秒程度となります。
「なんとなく全力」で走るのではなく、この客観的な数値に基づいてペースを管理することが、効率的なレベルアップの鍵です。
全力ではなく「5kmレースペース」を目安にする
VDOTの計算が面倒だという方は、ご自身の「5kmの自己ベスト(または全力で走った時のペース)」を目安にしてください。
インターバルトレーニングは、100mダッシュのような全力疾走ではありません。
1000mを5本揃えられるペース、つまり「きついけれど、フォームを崩さずに走り切れるギリギリのペース」が理想です。
これが概ね、5kmのレースペース、あるいはそれより数秒速いペースに相当します。
1本目が一番速く、5本目がボロボロになってしまうのは、ペース設定が速すぎる証拠です。
5本全てを同じタイム、あるいはラスト1本を一番速く上げられるようなペース配分が、最もトレーニング効果を高めます。
心拍数や体感強度(RPE)で判断する
GPSウォッチで心拍数を計測している場合は、最大心拍数の90%〜95%程度を目安にします。
しかし、心拍数はその日の体調や気温によって変動しやすいものです。
そこで頼りになるのが「体感強度(RPE)」です。
インターバルトレーニングにおける適切な体感は、「会話をするのが不可能なレベル」です。
「きつい」〜「かなりきつい」と感じるゾーンで走り続けることが重要です。
もし、隣の人と二言三言話せる余裕があるなら、それはペースが遅すぎます。
逆に、1本走っただけで足が止まってしまい、目の前が真っ白になるようであれば、それは無酸素運動になりすぎており、マラソンのトレーニングとしては強度が強すぎます。
練習頻度とスケジュールの組み方

インターバルトレーニングは強度が非常に高いため、毎日行うものではありません。
適切な頻度とタイミングでスケジュールに組み込むことが、怪我なく成長するための鉄則です。
ここでは、具体的なスケジューリングのコツを詳しく解説します。
週に1回、多くても2回までが鉄則
市民ランナーであれば、インターバルトレーニングは「週に1回」で十分な効果が得られます。
ポイント練習として週の真ん中(例えば水曜日)に設定し、週末に距離走(ロング走)を行うのが王道のパターンです。
記録を狙う上級者であっても、週に2回が限界です。
それ以上の頻度で行うと、疲労が抜けきらずにパフォーマンスが低下する「オーバートレーニング」の状態に陥りやすくなります。
筋肉の修復には時間がかかるため、焦らず週1回の質を高めることに集中しましょう。
週末のロング走(LSD)と組み合わせる
マラソンのタイムを伸ばすには、インターバルで鍛えた「スピード」と、ロング走で鍛えた「スタミナ」を融合させる必要があります。
これらは車の「エンジン」と「ガソリンタンク」の関係に似ています。
インターバルでエンジンを大きくし、ロング走でタンクを大きくするイメージです。
おすすめの週間スケジュール例は以下の通りです。
【サブ3.5〜サブ4目標の週間例】
・月曜:完全休養(ランオフ)
・火曜:つなぎのジョグ(30分〜40分)
・水曜:インターバル走(1000m × 5本)
・木曜:リカバリージョグ(ゆっくり30分)
・金曜:完全休養 または 軽いジョグ
・土曜:距離走(20km走 または 120分LSD)
・日曜:軽いジョグ または 休養
このように、高強度のポイント練習の間には、必ず低強度のジョグや休養を挟む「メリハリ」が重要です。
レース時期に合わせた期分け(ピリオダイゼーション)
一年中ずっと同じ内容のインターバルを行う必要はありません。
レース本番からの逆算でメニューを変化させることで、ピークを大会当日に合わせることができます。
1. 基礎構築期(3〜4ヶ月前):
まずはスタミナの土台を作る時期です。インターバルよりもじっくり長く走る練習を優先します。行うとしても、休息を長めにとったり、本数を少なめにしたりして体を慣らします。
2. 強化期(1〜2ヶ月前):
ここがインターバルの頑張り時です。設定ペースを厳守し、1000m×5本などの強度の高いメニューを週1回きっちりこなします。VO2Maxを最大限まで引き上げます。
3. 調整期(2週間前〜直前):
疲労を抜くために練習量を落とします。インターバルを行う場合も、本数を3本に減らすなどして「刺激入れ」程度に留めます。ここで追い込みすぎると、本番で力が発揮できません。
疲労時の「勇気ある回避」が成長を促す
スケジュール通りに練習をこなすことは大切ですが、それ以上に大切なのが自分の体の声を聞くことです。
「今日は体が重くてどうしても動かない」「足に違和感がある」という日に、無理やりインターバルを行うのは逆効果です。
質の低いインターバルを無理に行うよりも、その日は勇気を持って休養にするか、軽いジョグに切り替えましょう。
フレッシュな状態で万全のインターバルを行った方が、トレーニング効果は格段に高くなります。
「休むことも練習の一部」と割り切るメンタルコントロールも、マラソン練習においては重要なスキルです。
怪我を防ぐために絶対に守りたい注意点

インターバルトレーニングは効果が高い反面、体への負荷が非常に大きく、怪我のリスクが高い練習でもあります。
アキレス腱炎や肉離れなどのトラブルを未然に防ぐために、以下のポイントを必ず守ってください。
入念なウォーミングアップとクールダウン
いきなり速いペースで走り出すのは厳禁です。
インターバルを行う前には、必ず15分〜20分程度の軽いジョギングを行い、体を温めてください。
さらに、「動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)」を取り入れ、股関節や肩甲骨周りの可動域を広げておきます。
また、数本の「流し(ウィンドスプリント)」を行い、心拍数を少し上げておくことで、1本目からスムーズにスピードに乗ることができます。
練習後もすぐに止まらず、ゆっくりとしたジョギングでクールダウンを行い、溜まった乳酸を流すようにしましょう。
フォームが崩れたら中断する勇気を持つ
インターバルの後半、疲労がピークに達すると、どうしても腰が落ちたり、足音がドタバタとうるさくなったりしがちです。
フォームが崩れた状態で無理に走り続けると、関節や靭帯に異常な負荷がかかり、故障の直接的な原因になります。
また、悪いフォームを体が記憶してしまう恐れもあります。
もし設定した本数の途中でフォームが維持できなくなったら、そこで練習を切り上げるか、休息時間を長くしてフォームを整え直してから再開してください。
「回数をこなすこと」よりも「良い動きで走ること」を優先しましょう。
適切なシューズ選びと路面環境
インターバルトレーニングでは、着地衝撃が普段のジョギングの数倍になります。
そのため、シューズ選びも重要です。
薄底のシューズはスピードが出しやすいですが、脚への負担も大きくなります。脚筋力に不安があるうちは、クッション性と反発性を兼ね備えた「厚底レーシングシューズ」や、普段使いのジョギングシューズを使用することをおすすめします。
また、走る場所も重要です。
可能であれば、陸上競技場のタータン(ゴム質の舗装)や、土のグラウンドなど、衝撃吸収性の高い路面で行うのが理想的です。
アスファルトのロードで行う場合は、信号のない平坦な直線コースや、大きな公園の周回コースなど、安全にスピードを出せる場所を確保しましょう。
マラソンのインターバルトレーニングまとめ
マラソンのタイムを縮めるための強力な武器である、インターバルトレーニングについて解説してきました。
「きつい練習」であることは間違いありませんが、その分だけ得られる見返りは大きく、走力が一段階レベルアップするのを実感できるはずです。
記事のポイント
・心肺機能(VO2Max)とスピード持久力を効率よく強化できる。
・基本は「1000m × 5本」、スピード強化なら「400m」、スタミナなら「2000m」。
・ペース設定はVDOTや5kmレースペースを参考にし、休息はジョグでつなぐ。
・週1回の実施を基本とし、週末の距離走とセットで考える。
・ウォーミングアップとフォーム維持を徹底し、怪我のリスクを管理する。
最初は設定通りに走れなくても焦る必要はありません。
継続することで少しずつ心肺機能が強化され、以前は苦しかったペースが楽に感じられる瞬間が必ず訪れます。
ぜひ日々の練習に取り入れ、目標タイムの達成に向けてチャレンジしてみてください。





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