「マラソンに挑戦したいけれど、すぐに息が上がってしまう」「もっと楽に、長い距離を走れるようになりたい」そんな悩みを抱えていませんか?実は、マラソンのパフォーマンスを大きく左右するのが「呼吸法」です。多くのランナーが、無意識のうちに浅い呼吸を繰り返し、体に十分な酸素を届けられていません。
この記事では、マラソン中に苦しくなる原因から、初心者でもすぐに実践できる基本的な呼吸法、さらにレベルアップを目指すための応用テクニックやトレーニング方法まで、やさしく丁寧に解説します。正しいマラソン呼吸法をマスターして、苦しいだけのランニングから、楽しく快適なランニングへと変えていきましょう。
マラソンにおける呼吸法の重要性とは?

マラソンを走りきるためには、脚力や心肺機能だけでなく、効率的な呼吸法が非常に重要です。なぜなら、呼吸は体内に酸素を取り込み、エネルギーを生み出すための根源的な活動だからです。ランニング中に呼吸が乱れると、パフォーマンスの低下はもちろん、不快な症状を引き起こすこともあります。
なぜ呼吸が苦しくなるのか?
ランニングを始めると、体はより多くの酸素を必要とします。筋肉を動かすエネルギーを生み出す過程で酸素が消費され、同時に二酸化炭素が生成されるからです。このとき、血液中の二酸化炭素濃度が高まると、脳の呼吸中枢が刺激され、呼吸を促進させようとします。 これが「息が苦しい」と感じる主なメカニズムです。
特に走り始めは、体がまだ運動に適応しておらず、呼吸器や循環器系の働きが追いつかないため、一時的に酸素不足の状態になりがちです。 この状態は「デッドポイント」とも呼ばれ、多くの初心者が「自分には体力がない」と感じてしまう原因の一つです。 しかし、これは誰にでも起こりうる生理現象であり、走り続けることで体は次第に適応し、楽になっていきます。
また、息を吸うことばかりに意識が向いてしまい、十分に息を吐けていないことも息苦しさの原因になります。 肺の中に二酸化炭素を多く含んだ古い空気が残っていると、新しく吸い込んだ新鮮な酸素が効率よく取り込めません。
正しい呼吸法がもたらすメリット
正しい呼吸法を身につけることで、ランニング中に多くのメリットが生まれます。まず、体内に効率よく酸素を供給できるようになるため、エネルギー生成がスムーズになり、持久力が向上します。これにより、疲れにくく、より長い距離を楽に走れるようになります。
次に、リズミカルな呼吸は、フォームの安定にも繋がります。 呼吸と手足の動きが連動することで、走り全体にリズムが生まれ、無駄な力みを取り除くことができます。
さらに、深い呼吸、特に腹式呼吸を意識することで、体幹が安定し、ランニング中の姿勢維持にも役立ちます。 良い姿勢は、呼吸を楽にするだけでなく、着地時の衝撃を和らげ、怪我の予防にも繋がります。
呼吸筋を意識しよう
「呼吸筋」という言葉をあまり耳にしたことがないかもしれません。これは、呼吸をするために使われる筋肉の総称で、主に胸郭(胸の骨格)を広げたり縮めたりする横隔膜や肋間筋などが含まれます。
マラソンのように長時間にわたって深く速い呼吸を続けると、この呼吸筋も疲労します。 呼吸筋が疲労すると、呼吸が浅くなり、十分な酸素を取り込めなくなるため、息切れの原因となります。 逆に言えば、この呼吸筋を日頃から鍛えておくことで、呼吸が楽になり、ランニングパフォーマンスの向上が期待できます。 呼吸筋は、意識的なトレーニングによって強化することが可能です。
初心者がまず覚えるべきマラソンの基本呼吸法

ランニングを始めたばかりの方は、まず基本的な呼吸の仕方を身につけることが大切です。難しく考える必要はありません。いくつかのポイントを意識するだけで、驚くほど走りが楽になります。ここでは、すべてのランナーの土台となる基本的な呼吸法について解説します。
基本は「鼻から吸って口から吐く」?
ランニング中の呼吸は「鼻と口、どちらでするべき?」と疑問に思う方も多いでしょう。一般的には「鼻から吸って口から吐く」のが基本とされています。
鼻呼吸には、いくつかのメリットがあります。まず、鼻毛や鼻の粘膜がフィルターの役割を果たし、空気中のホコリや細菌が体内に入るのを防いでくれます。 また、吸い込んだ冷たく乾燥した空気を、適度な温度と湿度に調整してから肺に送るため、喉や気管への負担を軽減できます。 特に、空気が乾燥する冬場や、喘息の持病がある方には推奨される方法です。
しかし、ペースが上がってくると、鼻呼吸だけでは十分な酸素を取り込むのが難しくなります。そのため、苦しくなってきたら口も使って呼吸量を確保することが重要です。無理に鼻呼吸に固執するのではなく、口呼吸も補助的に使うのが現実的です。 大切なのは、自分にとって最も楽に感じる方法を見つけることです。
腹式呼吸のやり方と効果
ランニングで特に意識したいのが「腹式呼吸」です。普段、私たちは無意識に胸を膨らませる「胸式呼吸」を行っていますが、腹式呼吸はより多くの空気を取り込むことができる効率的な呼吸法です。
腹式呼吸とは、肺の下にあるドーム状の筋肉「横隔膜」を上下に動かすことで行う呼吸法です。 息を吸うときにお腹を膨らませ、吐くときにへこませるのが特徴です。 この呼吸法をマスターすると、一度にたくさんの酸素を肺の奥深くまで送り込むことができ、持久力の向上に繋がります。 また、腹式呼吸は体幹部のインナーマッスルを使うため、体幹の安定にも寄与し、効率的なランニングフォームを維持しやすくなります。
練習方法としては、まず仰向けに寝てリラックスした状態でお腹に手を置き、息を吸ったときにお腹が膨らみ、吐いたときにへこむのを確認しながら行うのがおすすめです。 慣れてきたら、立っているときや歩いているときなど、日常生活の中でも意識的に腹式呼吸を取り入れてみましょう。
リズムを意識した呼吸「2回吸って2回吐く(2呼2吸)」
走っている最中に呼吸のリズムがバラバラになると、フォームも乱れ、余計な体力を使ってしまいます。そこで、走るリズムと呼吸のリズムを合わせることが重要になります。
初心者におすすめなのが、「2回吸って、2回吐く」というリズムです。これは、4歩で1回の呼吸サイクルとなり、「スッ、スッ」と2歩で息を吸い、「ハッ、ハッ」と次の2歩で息を吐く方法です。 このリズムは、多くのランナーにとって自然で取り入れやすく、安定したペースを維持するのに役立ちます。
ポイントは、息を区切るのではなく、「スーッ、ハーッ」と滑らかに行うことです。 特に、苦しくなると息を吸うことばかりに意識が行きがちですが、むしろ「吐くこと」をしっかり意識するのがコツです。 古い空気をしっかり吐き出すことで、自然と新鮮な空気がたくさん入ってきます。 まずは会話ができるくらいのゆっくりとしたペースで、この呼吸のリズムを体に覚え込ませることから始めましょう。
レベル別!マラソンの走力に応じた呼吸法の応用

基本的な呼吸法が身についたら、次はレースの様々な状況に応じた呼吸のコツをマスターしていきましょう。快適なペースで走っている時、体力を消耗する上り坂、そしてゴール前のラストスパートでは、それぞれに適した呼吸法があります。状況に応じて呼吸をコントロールできるようになれば、より効率的に、そして力強く走りきることができるようになります。
レースペースでの呼吸法
レース本番や目標タイムを設定した練習では、イージーランニングの時よりも心拍数が上がり、より多くの酸素が必要になります。基本的な「2回吸って2回吐く(2-2リズム)」は、比較的ハードなランニングにも対応できる優れた呼吸法です。 このリズムを維持することで、体への酸素供給を安定させ、レースペースを維持しやすくなります。
ただし、走るペースは人それぞれ異なります。 もし、ゆっくりめのペース(例えば1kmを5分半以上かけて走る場合)で2-2リズムを行うと、必要以上に呼吸回数が多くなり、かえって心拍数が上がって早く疲れてしまうことがあります。 そのような場合は、「3回吸って3回吐く(3-3リズム)」といった、よりゆったりとした呼吸を試してみるのも良いでしょう。
大切なのは、自分の走るペースやその日の体調に合わせて、最も心地よいと感じる呼吸のリズムを見つけることです。 練習の段階で色々なリズムを試し、自分に合った呼吸法を確立しておきましょう。
きつい上り坂での呼吸のコツ
マラソンコースにつきものの「上り坂」は、多くのランナーが苦手意識を持つポイントです。平地に比べて重力に逆らって進むため、筋肉のエネルギー消費量が増え、心拍数が上がりやすくなります。
上り坂では、意識的に呼吸のリズムを少し速く、そして浅くすることが有効な場合があります。しかし、最も重要なのはパニックにならず、呼吸のリズムを乱さないことです。坂道では腕振りを力強く、歩幅(ストライド)を小さくして、リズミカルに足を運び、そのリズムに合わせて呼吸を続けることを意識しましょう。
また、苦しくなってきたら、息を「フーッ」と強く短く吐くことを試してみてください。息を強く吐き出すことで横隔膜が刺激され、次の吸気がスムーズになります。上り坂を克服するには、フォームや筋力も重要ですが、冷静に呼吸をコントロールする技術が大きな助けとなります。
ラストスパート時の呼吸法
ゴールが見えてきて、最後の力を振り絞るラストスパート。この局面では、体は限界に近い状態で、酸素需要も最大になります。 ここでは、もはや鼻呼吸にこだわる必要はありません。口も鼻も最大限に使って、とにかく多くの酸素を体に取り込むことに集中しましょう。
呼吸のリズムも、より速い「2回吸って1回吐く(2-1リズム)」や、さらに速い「1回吸って1回吐く(1-1リズム)」などに切り替えることが有効です。 ただし、呼吸が浅くなりすぎると、かえって効率が悪くなるため注意が必要です。
ラストスパートで重要なのは、苦しい中でも「吐く」ことを意識し続けることです。 浅く速い呼吸(過呼吸)になると、二酸化炭素ばかりが排出され、体内の酸素と二酸化炭素のバランスが崩れてしまい、めまいや手足のしびれを引き起こすことがあります。 限界の状況だからこそ、一度「フーッ」と強く息を吐ききって呼吸をリセットする意識を持つと、最後の粘りを発揮しやすくなります。
マラソン中の呼吸を楽にするためのトレーニング

マラソンの呼吸を楽にするためには、ランニング中の呼吸法を意識するだけでなく、日頃からのトレーニングも欠かせません。呼吸を司る「呼吸筋」を鍛え、体全体の「心肺機能」を高めることで、より楽に、そして速く走れるようになります。ここでは、普段の練習や生活に取り入れられるトレーニング方法をご紹介します。
呼吸筋を鍛えるドリル
呼吸筋、特に横隔膜や肋間筋は、トレーニングによって強化することができます。 呼吸筋が強くなると、一回の呼吸でより多くの酸素を取り込めるようになり、運動中の息切れが軽減されます。
自宅で簡単にできる呼吸筋トレーニングの一つに、お腹に意識を集中させる腹式呼吸の練習があります。仰向けに寝て、お腹に本などの少し重みのあるものを乗せます。息を吸いながらお腹を膨らませて本を持ち上げ、息を吐きながらゆっくりとお腹をへこませて本を下ろします。この動きを繰り返すことで、横隔膜を意識的に使う練習になります。
また、風船を膨らませることも、息を吐き出す筋肉を鍛えるのに効果的です。ポイントは、ゆっくりと、できるだけ長く息を吐き続けて風船を膨らませることです。これらのドリルを日常的に行うことで、ランニング中の呼吸が深まり、安定してきます。
心肺機能を高める練習法
心肺機能とは、心臓が血液を全身に送り出す能力と、肺が酸素を取り込む能力を合わせたものです。この機能が高いほど、筋肉へ効率的に酸素を供給できるため、疲れにくくなります。
心肺機能を高めるための代表的なトレーニングが「インターバルトレーニング」です。これは、速いペースで走る「急走期」と、ゆっくり走る(または歩く)「緩走期」を交互に繰り返す練習法です。 例えば、「1kmを全力の8~9割で走り、400mをジョギングで繋ぐ」といったセットを数本繰り返します。このトレーニングは体に高い負荷をかけるため、心肺機能の向上に非常に効果的です。
また、「LSD(Long Slow Distance)」とよばれる、おしゃべりできるくらいのゆっくりとしたペースで、長時間走り続けるトレーニングも有効です。 これは、毛細血管を発達させ、筋肉への酸素供給能力を高める効果が期待できます。
普段の生活でできる呼吸トレーニング
ランニングのパフォーマンス向上は、練習時間の中だけで行われるものではありません。日常生活の中でのちょっとした意識が、大きな差を生み出します。
例えば、普段から良い姿勢を保つことは、非常に重要です。 猫背になると胸郭が圧迫され、肺が十分に膨らむことができず、呼吸が浅くなってしまいます。 デスクワーク中なども、時々背筋を伸ばし、胸を開いて深呼吸することを心がけましょう。 これだけで、呼吸筋がうまく働きやすくなります。
また、エレベーターやエスカレーターをなるべく使わず、階段を使うようにするのも良いトレーニングになります。日常生活の中で、意識的に腹式呼吸を行う時間を設けるのも効果的です。 リラックスしている時や、就寝前などに、ゆっくりと深い腹式呼吸を数分間行う習慣をつけることで、無意識下でも深い呼吸ができるようになっていきます。
マラソン呼吸法に関するよくある質問

マラソンの呼吸法については、多くのランナーが様々な疑問や悩みを抱えています。ここでは、特に多く寄せられる質問に対して、分かりやすくお答えしていきます。科学的な知識と実践的な対処法を知ることで、あなたのランニングライフはもっと快適になるはずです。
口呼吸は本当にダメ?
「ランニング中は鼻呼吸が基本」とよく言われますが、では口呼吸は絶対にしてはいけないのでしょうか?結論から言うと、そんなことはありません。
確かに、鼻呼吸には空気をろ過し、加温・加湿するメリットがあります。 しかし、ランニングのペースが上がり、体が必要とする酸素量が増えてくると、鼻の穴だけでは空気の取り込みが追いつかなくなります。このような状況で無理に鼻呼吸を続けると、かえって酸欠状態に陥り、パフォーマンスが低下してしまいます。
大切なのは、鼻呼吸と口呼吸をうまく使い分けることです。比較的ゆっくりとしたペースでは鼻呼吸を意識し、ペースが上がって苦しくなってきたら、ためらわずに口も使って呼吸量を確保しましょう。 口呼吸はデメリットばかりではなく、一度に多くの空気を取り込めるという大きなメリットがあるのです。 最終的には、自分が最も楽に走れる呼吸法を見つけることが重要です。
横腹が痛くなる原因と対処法
ランニング中に、急に横腹がキリキリと痛くなった経験は多くの人にあるでしょう。この痛みの主な原因は、呼吸筋である「横隔膜」のけいれんだと考えられています。
走るときの上下動で内臓が揺さぶられ、横隔膜が引っ張られることや、運動によって消化器官への血流が減少し、横隔膜が酸素不足になることなどが引き金とされています。 特に、走り始めのハイペース、ランニング直前の食事、ウォーミングアップ不足などが痛みを誘発しやすいです。
もし横腹が痛くなったら、まずはペースを落とすか、一度歩いてみましょう。そして、痛む部分を軽く手で押さえながら、ゆっくりと大きな深呼吸を繰り返します。 息を吐くタイミングで体を少し前にかがめたり、痛みのある側と反対側に体を伸ばすストレッチも効果的です。
予防策としては、走る2〜3時間前には消化の良い食事を済ませておくこと、十分なウォーミングアップを行うこと、そして体幹を鍛えて内臓の揺れを抑えることが挙げられます。
音楽を聴きながら走るときの呼吸は?
音楽は、ランニングのモチベーションを高め、つらさを紛らわせてくれる素晴らしいツールです。しかし、音楽に集中しすぎるあまり、自分の体の声、特に呼吸のリズムを無視してしまうことには注意が必要です。
音楽を聴きながら走る場合でも、呼吸の基本は変わりません。自分の足の着地のリズム(ピッチ)と呼吸のリズムを合わせることを意識しましょう。例えば、アップテンポな曲に合わせて走る場合、自然とピッチが速くなります。その速いピッチに合わせて、「スッスッ、ハッハッ」という呼吸のリズムを刻むことが大切です。
音楽のビートと自分の呼吸リズムがうまくシンクロすると、走り全体に一体感が生まれ、より楽に、そして楽しく走ることができます。選曲の際には、自分が目標とするペースやピッチに合ったBPM(Beats Per Minute)の曲を選ぶのも一つの方法です。ただし、周囲の音が聞こえなくなるほどの大きな音量で聴くのは、安全上の観点から避けるようにしましょう。
マラソンのパフォーマンスを高める呼吸法のまとめ

この記事では、マラソンを楽に、そして長く走るための呼吸法について、その重要性から基本的なテクニック、応用、トレーニング方法までを詳しく解説してきました。最後に、重要なポイントを振り返ります。
まず、マラソンで息が苦しくなるのは、酸素不足だけでなく、体内で増えた二酸化炭素も原因です。 正しい呼吸法は、効率的な酸素供給を可能にし、持久力を高め、フォームを安定させるなど多くのメリットをもたらします。そのために重要なのが、横隔膜など呼吸を司る「呼吸筋」の働きです。
初心者の方は、まず「腹式呼吸」を意識し、走るリズムに合わせて「2回吸って2回吐く」というリズミカルな呼吸を身につけることから始めましょう。 慣れてきたら、上り坂やラストスパートなど、状況に応じて呼吸をコントロールする応用テクニックにも挑戦してみてください。
また、日頃から呼吸筋を鍛えるドリルや、心肺機能を高めるインターバルトレーニングなどを練習に取り入れることで、呼吸はさらに楽になります。 良い姿勢を保つなど、普段の生活での意識も大切です。
今回ご紹介したマラソン呼吸法を実践し、自分に合ったリズムを見つけることで、あなたのランニングはきっと大きく変わるはずです。苦しさから解放され、走る本来の楽しさを満喫してください。



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