「いつかはフルマラソンを走ってみたい」。そう思い立ったものの、何から始めていいのか、どれくらいの準備期間が必要なのか、分からないことだらけで不安に感じていませんか?マラソンは、決して無謀な挑戦ではありません。正しい知識を身につけ、ご自身のレベルに合った計画を立てることで、誰でも42.195km先の感動的なゴールテープを切ることが可能です。
この記事では、マラソン初心者が安心して準備を進められるよう、目標別の準備期間の目安から、具体的なトレーニング計画、揃えるべきアイテム、食事、体のケアまで、網羅的に解説します。この記事を読めば、あなたのマラソンへの挑戦が、より具体的で楽しいものになるはずです。
マラソン初心者に必要な準備期間は?目標別にご紹介

マラソン完走に必要な準備期間は、現在の運動習慣や目標によって大きく異なります。ここでは、それぞれのレベルに合わせた準備期間の目安をご紹介します。ご自身の状況と照らし合わせ、無理のない計画を立てる第一歩にしてください。
まずはウォーキングから!運動習慣がない人の準備期間(半年〜1年)
これまでほとんど運動経験がない、あるいは長期間運動から離れていたという方は、焦らずじっくりと体づくりから始めることが大切です。いきなり走り始めると、膝や足首を痛める原因になりかねません。まずはウォーキングからスタートし、「体を動かす」という行為を日常の習慣にすることを目指しましょう。最初の1〜2ヶ月は、週に2〜3回、30分程度のウォーキングを目標にします。慣れてきたら、ウォーキングの時間を少しずつ延ばしたり、コースの途中に軽いジョギングを挟んだりしてみましょう。このように、走るための基礎的な体力を養う期間として、最低でも半年から1年ほどの準備期間を設けるのが理想的です。この期間は、タイムを気にせず、楽しく体を動かす習慣を身につけることを最優先に考えましょう。
目標は完走!ランニング経験が少しある人の準備期間(4ヶ月〜6ヶ月)
普段からジョギングを楽しんでいる、あるいは学生時代に運動部に所属していて体力に少し自信があるという方なら、4ヶ月から6ヶ月の準備期間でフルマラソン完走を目指すことが可能です。 このレベルの方は、すでにある程度の基礎体力があるため、マラソンを走り切るための「持久力」を養うトレーニングが中心となります。
具体的には、週に2〜3回のランニングを継続し、そのうち1回は少し長めの距離を走る「ロング走」を取り入れるのが効果的です。最初は5km、10kmと徐々に距離を延ばし、最終的に大会の1ヶ月前までには20km〜30kmを一度に走れるようになっておくと、心身ともに大きな自信につながります。 この準備期間では、ただ走るだけでなく、後述するペース走やビルドアップ走といったトレーニングを組み込むことで、より効率的に走力を高めていくことができます。
サブ5を目指す!少し自信のある初心者の準備期間(3ヶ月〜4’ヶ月)
「サブ5」とは、フルマラソンを5時間以内で完走することを指します。ランニング経験があり、ハーフマラソン(約21km)を完走したことがあるなど、走ることに慣れている初心者の方であれば、3ヶ月から4ヶ月という比較的短期間の準備でサブ5を狙うことも可能です。 この目標を達成するためには、ただ長い距離を走るだけでなく、「レースペース」を意識したトレーニングが重要になります。
サブ5の平均ペースは1kmあたり約7分です。このペースを体に覚え込ませるための「ペース走」や、徐々にペースを上げていく「ビルドアップ走」を計画的に行いましょう。 また、短い期間で集中的にトレーニングを行うため、怪我のリスクも高まります。トレーニングと同じくらい、ストレッチや十分な休養といった体のケアにも時間を割くことが、目標達成のための重要な要素となります。
【マラソン初心者の準備期間】月別トレーニング計画

マラソン完走という目標に向けて、闇雲に練習するだけでは効率的ではありません。準備期間を大きく4つの時期に分け、それぞれの時期で目的意識を持ったトレーニングを行うことが、着実なステップアップにつながります。ここでは、6ヶ月の準備期間を想定したモデルプランをご紹介します。
準備期(6ヶ月前〜4ヶ月前):まずは「歩く・走る」に慣れよう
マラソンへの挑戦を決めた最初の2ヶ月間は、焦らずに「走る体」の土台を作ることに専念しましょう。 特にランニング習慣がなかった方は、まず週に2〜3回、30分程度のウォーキングから始め、体を動かすことに慣れてください。 慣れてきたら、ウォーキングの合間にゆっくりとしたジョギングを挟む「ウォーク&ラン」に移行します。例えば、「5分歩いて、1分走る」を5セット繰り返すといった形です。
この時期の目的は、心肺機能を少しずつ高め、ランニングに必要な筋肉や関節に刺激を与えることです。重要なのは、無理をしないこと。息が弾む程度、隣の人と会話ができるくらいのペースを心がけ、ランニングを「楽しい」と感じることが継続の秘訣です。この準備期で運動習慣を確立できれば、次のステップへスムーズに進むことができます。
鍛錬期(3ヶ月前〜2ヶ月前):少しずつ距離と時間を延ばす
準備期で走ることに慣れてきたら、この2ヶ月間で本格的に持久力を高めていきます。トレーニングの柱となるのが、LSD(ロング・スロー・ディスタンス)です。これは、その名の通り「長い距離をゆっくり走る」トレーニングで、おしゃべりできるくらいのペースで60分〜90分走り続けることを目指します。 このLSDを週末など時間のとれる日に週1回行うことで、マラソン後半でもバテない毛細血管の発達や、エネルギー効率の良い体質への変化が期待できます。
平日は、30分〜45分程度のジョギングを週に2回ほど行いましょう。また、この時期から少しバリエーションを加えるのもおすすめです。例えば、設定したペースを維持して走る「ペース走」や、後半にかけて徐々にペースを上げていく「ビルドアップ走」を短時間から試してみると、心肺機能の強化やレースペースへの意識づけに繋がります。
仕上げ期(1ヶ月前):本番を意識した走り込み
大会まで1ヶ月となったこの時期は、トレーニングの総仕上げです。これまでで最も走り込みを行う期間となり、精神的にも肉体的にもタフさが求められます。 この時期の最重要トレーニングは、本番のレースを想定した長距離走です。大会の3週間〜4週間前を目安に、一度30km走、もしくは3時間走に挑戦してみましょう。
この長距離走の目的は、単に長い距離を走るだけでなく、本番で使うシューズやウェアの着心地を確認したり、エネルギー補給のタイミングや補給食の種類を試したりすることにあります。 実際に30kmを走っておくことで、「自分はここまで走れた」という大きな自信になり、本番での精神的な余裕にも繋がります。ただし、疲労もピークに達する時期なので、無理は禁物です。少しでも体に異変を感じたら、勇気をもって休む判断も必要です。
調整期(大会直前):疲労を抜いてベストコンディションへ
レース1週間前からは、「テーパリング」と呼ばれる調整期間に入ります。 この時期の目的は、練習で蓄積した疲労を抜き、体のエネルギーを満タンにして、最高のコンディションでスタートラインに立つことです。 トレーニング量をぐっと減らし、走るとしても30分程度の軽いジョギングを1〜2回行う程度に留めましょう。 レース前日は、何もしない完全休養日とするか、不安な方は1〜2kmのごく短い距離をゆっくり走る程度にしてください。 この期間は、トレーニングよりも食事と睡眠が重要になります。炭水化物を多めに摂取して体内にエネルギーを蓄える「カーボローディング」を意識し、睡眠時間を十分に確保して体を回復させましょう。 不安から走り込みたくなる気持ちを抑え、心身ともにリフレッシュして本番に臨むことが、最高のパフォーマンスを引き出します。
マラソン初心者が準備期間中に揃えたい必須アイテム

快適で安全なランニングのためには、適切なアイテムを揃えることが不可欠です。特に初心者のうちは、アイテムに助けられる場面も多くあります。ここでは、準備期間中に必ず揃えておきたい必須アイテムをご紹介します。
シューズ:怪我予防とパフォーマンス向上の要
マラソン初心者が最もこだわるべきアイテムがランニングシューズです。 自分に合わないシューズで走り続けると、膝や足首の痛み、マメといったトラブルの原因に直結します。 初心者向けのシューズは、着地の衝撃を吸収してくれるクッション性や、足のブレを防いでくれる安定性に優れたモデルを選ぶのが基本です。 必ず専門店のスタッフに相談し、実際に足のサイズを計測してもらってから、複数のシューズを履き比べてみましょう。試し履きの際は、かかとのフィット感や、つま先に1cm程度の余裕があるかを確認することがポイントです。また、レース本番でいきなり新品のシューズを履くのは避けましょう。 最低でも大会の1ヶ月前には購入し、何度か履いて自分の足に馴染ませておくことが大切です。
ウェア:快適なランニングをサポートする機能性
ランニングウェアは、快適性を左右する重要な要素です。汗を吸っても乾きにくい綿100%のTシャツなどは、体が冷える原因になるため避けましょう。 選ぶべきは、汗を素早く吸収して外に逃がす「吸汗速乾性」に優れたポリエステルなどの化学繊維素材のものです。 Tシャツやパンツに加え、季節に応じてアームカバーやロングタイツ、ウインドブレーカーなどを準備すると、体温調節がしやすくなります。 また、意外と見落としがちなのがソックスです。普段履いているものではなく、ランニング専用のソックスを選びましょう。滑り止め機能や、衝撃を和らげるクッション性、マメを予防する5本指タイプなど、様々な機能を持ったものがあります。ウェアもシューズ同様、本番前に必ず練習で着用し、肌との摩擦(股ずれや脇ずれ)などが起きないか確認しておきましょう。
GPSウォッチ:ペースや距離を管理する相棒
GPSウォッチは、ランニングの質を高めてくれる心強い相棒です。走行距離、時間、ペースなどをリアルタイムで手元で確認できるため、計画的なトレーニングには欠かせません。 特に、「1kmを〇分で走る」といったペースを意識した練習では必須のアイテムと言えるでしょう。また、多くのモデルには心拍数を計測する機能も付いており、自分の運動強度を客観的に把握することができます。これにより、オーバーワークを防ぎ、より安全で効果的なトレーニングが可能になります。練習の記録がデータとして蓄積されていくので、日々の成長を可視化でき、モチベーションの維持にも繋がります。高価なものもありますが、最近では初心者向けのリーズナブルなモデルも増えているので、ぜひ導入を検討してみてください。
その他(キャップ、サングラス、ポーチなど)
上記の3つに加えて、あると便利なアイテムも準備しておくと、より快適にランニングに集中できます。
・ランニングポーチ:スマートフォンや小銭、鍵、そして後述する補給食などを携帯するのに便利です。 ウエストに巻くタイプや腕に装着するタイプなどがあります。
・ワセリン・皮膚保護クリーム:長距離を走ると、ウェアと肌が擦れて痛みが出ることがあります(股ずれ、脇ずれ、乳首ずれなど)。事前にワセリンなどを塗っておくことで、こうしたトラブルを予防できます。
・ゼッケン留め:大会でゼッケンをウェアに留めるためのアイテムです。安全ピンが配布されることが多いですが、専用のボタン式や磁石式のものを使うと、ウェアに穴を開けずに済みます。
これらのアイテムも、本番で初めて使うのではなく、必ず練習で試しておくことが大切です。
準備期間中の食事と栄養補給でマラソン完走を目指す

マラソンのような長時間の運動では、トレーニングと同じくらい食事が重要です。体を動かすエネルギー源となり、トレーニングで傷ついた筋肉を修復する材料となるのは、日々の食事だからです。 バランスの取れた食事を基本に、トレーニングの時期や目的に合わせた栄養補給を心がけましょう。
基本の食事:バランスの取れた食事が身体を作る
マラソンを走るための体づくりは、特別な食事ではなく、栄養バランスの取れた日々の食事が基本となります。 具体的には、エネルギー源となる炭水化物(ご飯、パン、麺類など)中心の「主食」、筋肉の材料となるたんぱく質(肉、魚、卵、大豆製品など)中心の「主菜」、体の調子を整えるビタミン・ミネラルが豊富な「副菜」(野菜、きのこ、海藻など)、そして「乳製品」「果物」を加えた5つの要素を意識することが理想的です。
特に長距離ランナーは、汗と共に鉄分が失われやすく、貧血のリスクが高まります。 貧血になると、体中に酸素を運ぶ能力が低下し、持久力に大きく影響します。レバーや赤身の肉、ほうれん草、ひじきなど、鉄分を多く含む食品を意識的に食事に取り入れましょう。
トレーニング前後の栄養補給:エネルギー切れを防ぐ
トレーニングの効果を最大限に引き出すためには、走る前後の栄養補給も重要です。空腹のまま走ると、エネルギー不足で力が出なかったり、低血糖で気分が悪くなったりすることがあります。 理想は走る2〜3時間前までに食事を済ませることですが、難しい場合は、走る30分前までにおにぎりやバナナ、エネルギーゼリーなど、消化が良く、すぐにエネルギーに変わるものを少量摂るようにしましょう。
そして、トレーニング後も大切な栄養補給のタイミングです。走り終わった体は、エネルギーを使い果たし、筋肉もダメージを受けている状態です。なるべく早く(できれば30分以内に)、炭水化物とたんぱく質を補給することで、効率的な疲労回復と筋肉の修復を促すことができます。 プロテインドリンクやオレンジジュース、おにぎりなどが手軽でおすすめです。
レース当日の食事と給水・給食戦略
レース当日の食事は、スタート時間に合わせた逆算が基本です。 消化にかかる時間を考慮し、スタートの3時間前までには食事を済ませるのが理想的です。 メニューは、おにぎりやパン、うどん、カステラなど、普段から食べ慣れていて、脂質が少なく消化の良い炭水化物が中心です。 そして、レース中のエネルギー切れ(ハンガーノック)を防ぐために、給水・給食の戦略を立てておくことが極めて重要です。
大会では給水所や給食所が設けられていますが、それに頼りすぎるのではなく、自分でもエネルギーゼリーやアメなどの補給食を携帯しましょう。 喉が渇いたと感じる前に、またお腹が空いたと感じる前に、こまめに水分とエネルギーを補給することが、最後までペースを維持するコツです。 これらの戦略も、必ず大会前の長距離走などで実際に試し、自分に合った量やタイミングを見つけておきましょう。
マラソン初心者が準備期間中に知っておきたい体のケア

マラソン完走という目標を達成するためには、頑張って走ることと同じくらい、体を休ませ、ケアすることが重要です。特に初心者のうちは、自分の体の声に耳を傾け、無理をしないことが怪我の予防につながります。「休むのもトレーニングのうち」という意識を持ちましょう。
ウォーミングアップとクールダウンの重要性
トレーニングの前後に行うウォーミングアップとクールダウンは、怪我を予防し、トレーニング効果を高めるために絶対に欠かせません。 ウォーミングアップは、心拍数を徐々に上げ、筋肉や関節を温めて動きやすくすることで、走り始めの体の負担を軽減します。 体を動かしながら筋肉を伸ばす「動的ストレッチ」(腕回しや脚の振り上げなど)を中心に行いましょう。
一方、クールダウンは、走り終えた後に興奮した体を落ち着かせ、疲労回復を促す役割があります。急に止まると心臓に負担がかかるため、ジョギングからウォーキングへと徐々にペースを落とし、最後にゆっくりと筋肉を伸ばす「静的ストレッチ」で硬くなった筋肉をほぐしましょう。 この一連の流れをセットで習慣づけることが大切です。
初心者に多い怪我とその予防策
マラソン初心者が陥りやすい怪我には、ランナー膝(膝の外側の痛み)、シンスプリント(すねの内側の痛み)、足底筋膜炎(かかとの痛み)などがあります。 これらの多くは、急に走り始めたり、走りすぎたりする「オーバートレーニング」が原因です。 予防の基本は、急激に練習の距離やスピードを上げないこと。 目安として、1週間の走行距離を前の週より10%以上増やさない「10%ルール」を意識すると良いでしょう。
また、走る動作ばかりに集中しがちですが、ランニングフォームを支える体幹(腹筋、背筋)や、お尻周りの筋肉を鍛える補強トレーニングを週に2〜3回取り入れることも非常に効果的です。 筋力が高まることで、着地時の衝撃を筋肉が吸収し、関節への負担を減らすことができます。痛みを我慢して走り続けると、症状が悪化し長期間走れなくなる可能性もあるため、痛みを感じたら無理せず休養し、必要であれば専門の医療機関を受診しましょう。
休養(レスト)もトレーニングの一部
トレーニングで体に負荷をかけると、筋肉の繊維は一時的に損傷します。この損傷した筋肉が、適切な栄養と休養によって修復される過程で、以前よりも強くなる「超回復」という現象が起こります。つまり、トレーニングと休養はセットで初めて効果を発揮するのです。 毎日走り続けるよりも、トレーニングの間に休養日(レスト)を設ける方が、結果的に走力は向上します。
特に初心者のうちは、走る日と走らない日を交互に設定するなど、週に2〜3日は完全な休養日を作るように計画しましょう。疲労が溜まっていると感じる時は、計画に固執せず、勇気をもって休むことが大切です。また、十分な睡眠は、最高の疲労回復方法です。質の良い睡眠を確保することも、重要なトレーニングの一環と捉え、日々の生活習慣を見直してみましょう。
マラソン初心者が準備期間にすべきことの総まとめ

フルマラソン完走は、決して夢物語ではありません。今回ご紹介したように、ご自身のレベルに合った準備期間を設定し、計画的なトレーニングを積むことが成功への道筋となります。
まずは、運動習慣がない方は半年〜1年、少し経験がある方は4〜6ヶ月を目安に準備を始めましょう。トレーニングは「準備期」「鍛錬期」「仕上げ期」「調整期」と段階を踏んで、無理なくレベルアップしていくことが重要です。
そして、トレーニングと同じくらい大切なのが、シューズをはじめとするアイテム選び、バランスの取れた食事、そして怪我を防ぐための体のケアと休養です。これらすべてが噛み合って初めて、42.195kmという長い道のりを走りきることができます。
この記事で得た知識を元に、あなた自身のマラソンへの挑戦をスタートさせてください。ゴールテープを切った瞬間の達成感は、きっとあなたの人生にとって忘れられない素晴らしい経験となるはずです。



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